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秋の月夜に、あたたかい指先

台風が抜けて、瞬間的な真夏日も過ぎ去り、秋の気配が日を追うごとに増していく。


寝かしつけのとき、ねむりにつく小さな娘を腕に抱いていると、
あたたかくてやわらかな感覚のなかに浮遊していた。

それは、言葉にしてしまえば幸せ、とか、愛、になるのだろうか。
しかし、これまで感じた幸せというものを遥かに超えていて、同列に扱うのが適当ではない気もする。
しあわせ、ととても似ているけれど、今までのそれとは非連続な気もする。


そのとき、わたしは急激に自分の生きてきた意味を理解した。


あるいは、妊娠と出産を経て、わたしは別のストーリーを生き始めたのだろうか?
オムニバス・ストーリーで、あるときの主役が、あるときの脇役になるように。


娘をはじめて靴を履かせて公園に連れて行った。転がるように歩く姿は喜びに満ちていた。

近所の女の子が声をかけてくれる。弟と両親と公園に遊びにきたようだ。やさしく娘に触れ、しあわせそうな表情をしてくれていた。

夫の実家で親戚達にかわるがわる遊んでもらう娘。
夫の妹が幼い頃に着ていた法被を着て、近所のお祭りで人混みの中一生懸命にとてとてと歩く姿。

眠りにつく娘の、あたたかく湿った指先がわたしの指をつかむ感触。


少し涼しくなった秋の空に、月が輝いている。