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神の使いに囲まれて

朝からの外回りでバタバタと忙しくしている中、気が付くとお昼時間を迎えていた。
お店で食べる時間もないので、コンビニでパンと飲み物を買い、近くの公園で軽く済ませることにした。
初めて訪れたその公園は、広い芝生エリアがありながらも、芝は短く刈り込まれ、しっかりと手入れが行き届いていた。
遊歩道に設置されたベンチに座ると、鳩が1羽、2羽とお尻を振りながら近づいてきた。

すぐに近づいてくるのは、人に慣れた鳩だ。
きっと餌付けする人がいて、餌を貰うために私に寄ってきたのだろう。

そう考えていると、「バサバサ」っと音を立てながら、天から複数の鳩が私の側に降り立った。
空を見上げると、電線の上に監視するようにこちらを見つめる鳩が何羽も並んでいる。
気が付くと、地面と空の両方でおよそ30羽の鳩に囲まれていた。
彼らは目を見開いたような真ん丸の眼で、私をじっと見つめていた。

何か餌を出さないとクチバシで小突かれて痛い目にあうのだろうか?
鳩達による集団暴行を想像して、足がすくんだ。
恐怖は思考と身体を停止させ、私はその場から逃げ出すことが出来ずにいた。
もし、彼らが私を攻撃してきたら、サンドバックのようにされるがままになるだろう。
だが、動かない私をよそに、鳩達は一定の距離を保ったまま、私に近づいてくる事はなかった。
少し安心をしていると、1羽の鳩が「クルックルー、クルックルー」と鳩独特の鳴き声で鳴き始めた。
すると、周りの鳩達も「クルックルー、クルックルー」と呼応するように1羽、また1羽と鳴き声が合わさり、全員で私に鳴き声を浴びせてきた。

「クルックルー、クルックルー」

人間であろうが動物であろうが、魂の語りは言葉や人種の壁を超えて、言いたいことが伝わってくる。

「クルックルー」
(兄さん、いいパン持ってるじゃねーか)

「クルックルー」
(俺らにくれよ!!)

あぁ、鳩の声が聞こえる。

人間に恐喝されたら、警察に駆け込めばいい。
だが、鳩に恐喝されたらどこに駆け込めばいいのだろうか。
鳩を取り締まる機関はなく、この公園では鳩が法律だ。
この公園を利用したショバ代を私は要求されているのだ。
私は昼食用に買ったパンを細かくちぎりながら彼らに分け与えた。
そして、私のパンが無くなるのを見計らうと、鳩達は私に興味を失いすぐに離れて行った。

食べ物を失い空腹になった私は、外回りに戻る気力も失い、自然とため息がこぼれてしまう。
私は空を仰ぎながら「バサバサ」と翼を羽ばたかせながら、空を舞う鳩を眺めていた。
その時に、ふと八幡宮では鳩が神の使いとして崇められているのを思い出した。
もしかしたら、私は彼らの声を聞き間違えたのかもしれない。

「クルックルー」
(愚かなる人間よ)

「クルックルー」
(さぁ、そのパンを我等に捧げよ!)

あぁ、神の声が聞こえる。

私は昼食を奪われたのではない、神の使いに捧げたのだ。
きっといつか、神がこの恩恵を与えてくれるに違いない。

私は空腹に耐えながら、希望をもって外回りに戻った。

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高宮フミ
ギブミーマネー!ギブミーチョコレート!!

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