初めての鬼【毎週ショートショートnote】
小さい頃から、じゃんけんが強かった。一対一なら大抵勝つし、大勢なら最初負けても、最後に負けることはなかった。
だから、鬼ごっこで鬼になったことがなかった。
それに足が速かったから捕まらなかった。おまけに負けず嫌いだから、わざと捕まるなんて、しなかった。どこまでも逃げた。
だから、今、初めて鬼になることに気づいて、びっくりした。
初めてがこんなに本格的になるとは。
赤いぴったりとした長袖Tシャツに赤いスパッツ。その上からさらに虎柄のパンツを履く。もじゃもじゃのカツラには短いツノが二本生えている。顔に色を塗るのはやめて、赤いマスクをつける。そして、締めくくりに金棒。とげまで付いて、見た目は怖いが、プラスチックで軽い。
さあ、出陣だ。
「ガオー」
声を張り上げて、リビングに入ると、豆が飛んできた。
「鬼は外、福は内」
友だちと一緒に息子の悠太が元気いっぱい、豆をまく。
親馬鹿な鬼の目には涙が浮かんだ。