田辺 ふみ
白内障手術の体験記です。
一週間は寝る時に眼帯をつけるように言われたのですが、片目ずつの眼帯を二つすると、耳に二つ紐がかかるし、頬にも紐がかかるし、なかなか、うっとうしい。顔も洗えず、拭くだけのせいか、紐が当たっているところに吹き出物ができました。 あまり、暑くなかったので、六日間、洗顔、洗髪なしでしたが、なんとか、耐えられました。 ときたま、目の端で蛍光灯の切れかけのようにチカチカ光るのですが、みんな、蛍光灯のようだと言うそうです。知らない世代の人は何と言うのかなあ。レンズの端で屈折して光るそ
手術シーンが苦手な方はお気をつけください。 右目の手術から二日後、左目の手術です。 待合室で前回と同じ人たちと会うかと思っていたら、何人かいない人がいます。きっと、二日後ではなく、一週間後を選択したんでしょう。 微妙に右目の時と手順が違っていたりするのが気になります。 オゾン水が前回よりしみるのは目に傷があるんでしょうか。 自分の番が来て、前回と同じように素早く目を固定されます。 されることがわかっているので、余裕がある分、機械の音が気になります。 ふと、目
術後、しばらくは目薬のせいで瞳孔が開いていてまぶしかったです。全体的に薄いマジェンタ色がかかっていて、十分ぐらいで普通の色に戻りました。蛍光灯の点滅みたいに目の端の方でチラチラまぶしかったりします。 四時間ぐらいでよく見えるようになりました。 手術後の目薬は三種類を五分以上間を空けてさすという面倒くささ。左目は手術前の目薬をささないといけないので余計に面倒くさいです。 眼帯は手術日は一日中、その後、一週間は寝る時だけつけるようにとのこと。 顔を洗うのが禁止なので、拭
美容院では前髪をいつもより短くしてもらうようにお願い、結果、短くなり過ぎました.三日前から日に三回、目薬。そして、午前中にシャワーを浴び、準備万端です。 まずは悪い方の右目から。 手術室の横に待合室(?)があり、自分の順番を待ちます。準備、一時間半、手術室、三十分と聞いています。 私が入った時点で済んだ人一人、手術待ち三人でした。 手首に取り違え防止のバンドをつけられ、問診、体温測定、血圧測定と進みます。 目薬は時間を置きながら、点眼されますが、何と七回で前半終了
両目まとめて手術するぞと決心して検査です。 黒目の細胞の数やら形やら大きさやら、六種類ぐらいの機械で検査します。 で、その一つ目の検査機が調子悪くて、いきなり再起動。どうも、再起動と縁があるようです(過去に人間ドックでMRIの再起動経験あり) 検査結果で一番びっくりしたのは目の大きさ。近視は目が大きくなるそうです。普通は24mmぐらい。私は左目、27mm、右目29mmで立派な強度近視です。 それから、目の奥、盲点の下あたりが変形してました。ちょっと、曲面が平らになっ
元々、両目とも0.05以下のひどい近視、おまけに右目の方がひどくて、レンズが分厚いから、右耳が痛くなるという状態でした。 だから、新しく買った眼鏡が半年ぐらいで右だけ合わなくなった時もまたかって感じでした。コロナでリモートワークが増え、家では画面の小さいノートPCなので悪くなったのかとのんきに思っていました。 ただ、あまりにも右ばかり視力が悪化するので、コンタクトの残り枚数も少ないことだしと、きちんと病院で見てもらうことにしました。 予約内容は目の検査と眼鏡、コ
「お待たせいたしました。本日、ネイルの担当をさせていただきます山崎です」 現れた山崎さんは相変わらず華やかだ。 「お久しぶりです。こちらで働いてるんですね」 本当は山崎さんがいるから、このサロンを選んだのだ。 私の苗字は珍しいので、予約を見て、山崎さんもすぐにわかったはず。それでも、私を担当することにしたんだ。 「ええ」 短く答えて、山崎さんは仕事の顔を崩さなかった。 「お客様は爪が短いので、ジェルネイルで少し長さを出されたらいかがでしょう」 ジェル
小さい頃から、じゃんけんが強かった。一対一なら大抵勝つし、大勢なら最初負けても、最後に負けることはなかった。 だから、鬼ごっこで鬼になったことがなかった。 それに足が速かったから捕まらなかった。おまけに負けず嫌いだから、わざと捕まるなんて、しなかった。どこまでも逃げた。 だから、今、初めて鬼になることに気づいて、びっくりした。 初めてがこんなに本格的になるとは。 赤いぴったりとした長袖Tシャツに赤いスパッツ。その上からさらに虎柄のパンツを履く。もじゃもじ
「こんなきれいな海じゃなかったんだよ」 おじいちゃんはポツリと言った。 おじいちゃんが小学校の頃まで住んでいたという場所は白い砂浜になっていた。 「大きな造船所があってね、ここらへんは全てコンクリートで埋め立てられていたんだ。公害があったって、知ってるかな?」 「社会で習った」 「排水で変な匂いがして、油がギラギラ浮かんで、ひどかった」 そう言いながら、おじいちゃんは砂をつかみ、サラサラと手からこぼした。 「きれいになったなあ」 まるで、きれいになったのが嫌なようだ。
家に帰ると、まず、ポストを開けて、夕刊を取る。 また、回覧板が入っていた。 「重要。大至急だって」 そう言いながら、家に入ると、妻は料理中だった。 「お帰りなさい。ごめん、大至急なら、読んで、お隣に回しておいてもらえるかな?」 帰ったばかりなのに、と不満に思ったが、どうやら、トンカツを作っているようなので、黙って言うことを聞くことにした。 回覧板に判子を押すと隣のポストに放り込む。読まなくても大丈夫だろう。 妻は真面目だから、重要と書いてあったら、必ず、俺にも読ま
「校長先生ですね、今日はよろしくお願いします」 やってきた花咲か師は予想外に若かった。 花咲かじいさんのイメージが強いせいか、自分より年上の人間をイメージしていた。 ただ、普通の服装なのに頭には頭巾をかぶっている。 すぐに校庭の大きな桜の木に案内した。まだ、つぼみは小さく固いままだ。 「この木に花を咲かせてください」 明日はこの中学校の卒業式。 イベント中止が多かった三年間、せめて最後は満開の桜で送りたい。 「おまかせください」 花咲か師は肩にかけていた鞄を開け
「ドクター白石が開発したダイエット食。工場建設のための目標額は一億円。クラウドファンディングをご支援くださった方から先に一ヶ月分進呈」 写真は棒のない綿菓子にしか見えない。 でも、モニターたちは絶賛していた。 「ほんと、すっごくおいしいの。なめらかで、そう、とろける〜。お腹だけでなく心まで満たされる感じ。霞を食べる仙人になれそう」 中でも不思議系アイドルの沙良がSNSで取り上げたことで、『#霞ダイエット』というハッシュタグが広まり、話題になった。 私も寄付し
「百年たったし、もう、そろそろ、付喪神になってもいいと思うんだけどね」 アップライトのピアノをそっと撫でた。 よく触るところは黒の塗装がすり減って、下の木目が見えている。 「洋風の物は付喪神にならないんじゃない」 そう言ったのは、ペンダントの薫だった。元は祖母の帯留めだった。物持ちのいい家だからか、付喪神は薫だけではなく、他にもいる。 「好きな曲は何か教えてくれたら、弾くのになあ」 そう言うと、ピアノがブルッと震えた。 「すんません、我慢できなくなりまし
「先輩、帰って来ました」 ヒカルは私のことを先輩と呼ぶ。私の昔話を聞いて、憧れて、野球部に入ったからだと言う。 「お疲れ様。よく頑張ったね」 「悔しかったあ。八回のチャンスに打てれば、優勝だったのに〜」 「準優勝でもすごいよ」 「来年は優勝します。だから、体を治して、応援に来てくださいね」 「もちろん」 もう退院できないかもしれないと思っていた。でも、頑張ろう。 「それで、お土産です。負けたチームのお約束」 ヒカルが差し出したのは小さな瓶だった。
「三角関係じゃないんだからね」 私は朱莉にピシリと言う。 言われた朱莉はにっこりと笑いながら、ちらしを女子学生に渡した。 「カレー同好会です。食べるのが好きな方、作るのが好きな方、ぜひどうぞ」 今日は大学の入学準備説明会。メンバーがたった十人のサークルとしては、なんとしても新人をゲットしたい。 東門の担当は私たち二人だ。正門には先輩たちがノボリを持って立っている。 「カレー同好会です。一緒にカレーを食べませんか?」 男子学生にちらしを渡すが、彼の目は朱
「今から行ってもいいか?」 んー、どうしよう。男二人がかち合ったりしたら、面倒くさいなあ。 「長い時間はいられないんだけど」 それなら、大丈夫かな。 「ちょっと、プレゼントがあるんだ」 お金、苦しいんじゃないの? まあ、いっか。 「うん、じゃあ、ユナ、楽しみに待ってるね」 「ユナはお金がかかるの。わかってる?」 そう、わかっていて、好きになった。 だから、どんなに贅沢されても平気だった。それだけの稼ぎがあったし、ユナを連れているだけで、自慢になった。 金のかかる