君に贈る火星の
「先輩、帰って来ました」
ヒカルは私のことを先輩と呼ぶ。私の昔話を聞いて、憧れて、野球部に入ったからだと言う。
「お疲れ様。よく頑張ったね」
「悔しかったあ。八回のチャンスに打てれば、優勝だったのに〜」
「準優勝でもすごいよ」
「来年は優勝します。だから、体を治して、応援に来てくださいね」
「もちろん」
もう退院できないかもしれないと思っていた。でも、頑張ろう。
「それで、お土産です。負けたチームのお約束」
ヒカルが差し出したのは小さな瓶だった。
中には砂が入っている。
「これが?」
「そうでーす。甲子園の砂です。あ、殺菌はしたけど、開封禁止だそうです」
憧れていた甲子園。望んでも最初から無理だった甲子園。
やっと、女子野球も同時開催されるようになった。元の甲子園が無くなり、火星に移転した時代になって、やっと。
孫娘のくれた瓶を傾けると、赤い砂がサラサラと流れた。
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