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子どもをニューエリートに育てる方法

1つ突き抜ければ輝ける時代
──今、かつてのエリートとは異なる「ニューエリート」が活躍し始めています。これからの時代、どのような人がニューエリートになっていくと思われますか。
T まず、ニューエリートのすべてがリーダーである必要はないんですよね。リーダーにならなかったらもう終わり、というふうに思わなくていい。
これまでは、いい中学、高校から東大に入って、大手企業に就職して……というエリートコースを目指すために、親たち、特に母親は、とにかくその道を外れないような教育をしてきました。
でも、これからは、みんながみんなリーダーにならなくても、何か1つ、突き抜けて尖ったところがあれば、輝ける時代です。その尖ったところ、子どもが得意なことを、早いうちに見つけて伸ばしていくことを意識する必要があると思います。

F そう、そういう僕らや今の親世代が信じてきたエリートコースは、もう目指すべきところではないということは、はっきりしていますよね。
多くの小学校では、「みんな一緒に仲良く元気良く」という教育目標が掲げられています。近年はそこに「よく考える」というのが入ってきているんですけど、これは実は矛盾していて、ファッションのように加えられたものじゃないかと思えてしまう。
だって、「よく考える」が目標なら、別に活発でなくてもいいし、1人で好きなことに没頭していてもいいはずですよね。
例えば、エジプト考古学者の吉村作治さんは、小学生の時「暗い」ということでいじめられていたそうです。それで、図書館に逃げ込んで本を読むうち、『ツタンカーメン王の秘密』に出会い、夢中になった。
そこからずっとその興味を究めて、今の仕事につながったわけです。これからの時代は、そういう希少性に向かっていくべきだと思いますね。

T 今だと、世界ジュニアゴルフ選手権の6歳以下の部で、史上最年少の5歳で優勝した須藤弥勒ちゃんがいますよね。
あの子の場合は、父親がいろいろなことをやらせてみて、ゴルフが最も向いているという見立てをして、徹底的に取り組んでいった。そういう見立てを、親ができるかどうかが重要になってくると思います。
目指すべきは“ミリオンズ”
──藤原さんは「『100人に1人』のスキルを3つ掛け合わせて、『100万人に1人』の希少な存在になれ」という自説を唱えていますが、これからは、子どもの頃からそれを意識した方がいいということでしょうか。
F まさにそういうことです。100万人に1人の存在というのは、オリンピックでメダルを取るくらいの確率です。
100万人のピラミッドの頂点に立つのは、普通に考えたら難しいですよね。でも、どんな人でも、1つのことに1万時間を投じれば、100人に1人の存在にはなれるんです。
それを3つの分野で成し遂げれば、その掛け合わせで100万人に1人に匹敵する希少性を手に入れることができる。
僕はこの考え方を「3つのキャリアの大三角形」として繰り返し訴えてきました。
最近は高濱さんをはじめ、堀江貴文くんや西野亮廣くんも賛同して広めてくれているんですけど、これからは100万人に1人の希少性を持つことを“ミリオンズ”と呼び、宗教のように布教していきたいと思っています(笑)。

T 藤原さんのこの大三角形の話は、とてもわかりやすいですよね。ミリオンズっていうのもいいですね。ただ、実際に子どもたちがミリオンズを目指していくには、親の意識を変えていかないといけない。それこそ、宗教改革くらい大変なことですよ。
F 確かに、宗教改革みたいなものだよね。ずっと「みんな一緒に仲良く元気良く」できちゃっているから。
今のような成熟社会になるまでは、それでもよかったんですよ。そうやって、みんなで一緒に知識や技能を身につけて、いち早く正解を導き出す情報処理力を高める教育を行うことで、成長期の日本は「上質な普通」の社会をつくり上げてきたわけですから。
時速300kmで走る新幹線の運行を分単位で管理できたり、レストランで同行者が別々のメニューを頼んでもほぼ同じタイミングで提供されたりするのは、日本くらいのものですよ。そのベースとなった教育を否定するつもりはないんです。
しかし、そういう情報処理的なことは、これからAIが担っていくようになります。
世界的ベストセラー『サピエンス全史』の著者、ユヴァル・ノア・ハラリは、『ホモ・デウス』では現代のネットワーク社会とAIや生物工学の技術の融合が進めば、人間が機械化していき、やがては人間の意味が消えると予言しています。


ただ、そうなったとしても、機械に意識が宿ることはない。意識があるかどうかが、機械と人間の違いになるということも、彼は指摘しているんですね。
じゃあ、どんな意識で生きていけばいいのかというと、先ほどの希少性を見いだすということなんですよ。今までみたいに「みんな一緒に仲良く元気良く」の方に向かってしまうと、その子の価値が失われていきますから。
T でも、母親の多くはそこが苦手なんですよ。3つのキャリアの大三角形の話や、ミリオンズとして活躍している人の話をすると、「なるほど」「すごいですね」などと言ってはくれるものの、実際には「うちの子どもは普通でいいです」って思っている。
その「普通」というのは、やっぱり東大に入るみたいなことで、旧態依然としているんですよね。
10歳までに「人間力」を育む方法
──母親はなぜ、それほどまでに「普通」から外れることを恐れるのでしょうか。
T 群れることで、安心できるからだと思いますね。
つい最近聞いた話で驚いたのは、中学受験のための全国統一小学生テストなどを実施している大手進学塾では、小学校入学前の年長生から、偏差値がわかるテストを始めたそうなんですよ。
それはおそらく、母親の「今、目に見える結果を知りたい」というニーズがあるからで、それだけ外れないための指標を求める人が多いということの表れだと思います。
ですから、ニューエリートを育てるには、ミリオンズを広めていくのと同時に、母親の意識改革も必要なんです。そして、そのためには、父親が広い視野を持たせてあげることが大事だと思います。
──父親は、「外れたくない民族」の母親の対抗勢力になってあげるということですね。ただ、尖った生き方をしてこなかった父親が、子どもに対して「外れてもいい」ということを言えるでしょうか。
F 実際に言えるかどうかは別として、少なくとも企業に勤めている父親なら、社会の現実を知っていますよね。東大を出ていてもリーダーシップを発揮できない人がいたり、さりげない気遣いができる人の方が職場の評価が高かったり。
知識一辺倒では人を惹きつけることはできないということはわかっているわけですから、それを伝えることはできるはずです。
T いわゆる「人間力」ですよね。思考力や判断力、表現力といった生きる力を育むには、子どもが10歳になるまでの働きかけが重要です。
この時期の子どもは母親の影響力が大きいので、過干渉にならないようにした方がいい。でも、母親にとってそれは難しいことなので、父親が大局的な視点を持ってほしいと思いますね。
例えば、外遊びをたくさんさせるとか、サマースクールやキャンプに参加させるとか。

花まる学習会でも、野外での体験学習を実施していますけど、親元を離れて、親以外の大人や子どもたちと自然の中で過ごす間には、五感が刺激されたり、時にはトラブルに遭遇したり、ケンカが起こったりもします。
そうしたときに、問題を解決したり、コミュニケーションの方法を考えたりするなどたくさんのことが学べるんです。実際、親御さんたちに話を聞くと、子どもが野外体験から帰ってくると、成長したのを実感できるという声が多く聞かれますね。
「ナナメの関係」で情報編集力を鍛える
F 僕も、10歳まではしっかり遊ばせた方がいいと思いますね。そして、世代や立場を超えた人間関係にもまれることも大事です。
僕はそれを「ナナメの関係」と呼んでいるんですけど、昔はそのナナメの関係が、地域社会にあったんですよ。
学校の先生や母親に叱られて、家に帰りたくないというようなときには、近所のおばさんやおじさんが声をかけてくれたり、家に上げてくれたりして。
それから、僕は当時にしては珍しく一人っ子だったんですけど、友達にはほとんど、きょうだいがいたんですね。そのお兄ちゃんやお姉ちゃんたちと一緒に遊んでもらうために、愛想を良くするとか戦略を立てたりもして(笑)。

そういうところで、自分で考えて、みんなが納得できる解を見いだしていく「情報編集力」が鍛えられていたんです。
家を建てるときには、柱と柱の間に筋交いを斜めに渡して、補強しますよね。ナナメの関係はまさにその筋交いのようなもの。家庭や学校で何かあったときでも、ナナメの関係があれば、子どもの支えとなってくれます。
地域社会が衰退して、ナナメの関係を持ちづらくなった今は、サマースクールやキャンプを活用するのも有効だと思います。
T 学習塾が主催するようなサマースクールやキャンプじゃなくてもいいんですよ。お父さん同士が集まって企画するキャンプもお勧めです。
F 僕はアウトドア派ではないので、正直なところ、キャンプは嫌いなんですよ(笑)。それでも、3人の子どもたちには経験させたかったから、アウトドアが得意なお父さんと一緒に行っていましたね。
そうすると、雪の積もる湖畔でのキャンプとか、自分では絶対に思いつかないような体験ができて、子どもたちも喜んで。
そういう意味では、親にとっても、いろんな得意分野のある人とナナメの関係を持っておくことは大切だと思いますね。
T それはいいアイデアですね。父親の得意なことを持ち回りで企画して、いろいろな体験をさせるなんていうのもいいかもしれない。
夫は妻の笑顔と幸せを3回唱えろ
──父親の役割として、ほかにも意識しておくといいことはありますか。
T 母親がいつも笑顔でいられるようにすることですね。子育ての中心的な役割を果たすのは母親です。これは社会制度や共働きかどうかといったこととは関係なく、生物学的な観点からの見解です。
自分のお腹を痛めて子どもを産む母親と、そうできない父親とでは、母親の方が偉大な存在だと考えるのは自然なことですよね。
ですから、その母親、つまり、自分の妻がいつもニコニコ笑っていられるように尽くすのが、父親、夫の大切な役割だと思います。
家事が得意なら分担する、聞き上手なら妻の愚痴や不安にとことん付き合う。

ただ、苦手な人がそれをやると、家事をやってもうまくできなくて逆にイライラさせてしまったり、良かれと思ってしたアドバイスが怒りを買ったりと、逆効果になることもあります。
家事も話を聞くのも苦手という男性は、自分の妻が喜ぶことを考えてみるといいでしょう。
例えば、アイドルが好きならライブに行かせてあげたり、ママ友とのおしゃべりがストレス発散になるようならその時間を多くつくってあげたり。働くことが好きなら、仕事やボランティアを勧めたり。
そういう、妻の笑顔に効く「ニコニコカード」を用意しておいて実行する。妻自身が自分でニコニコカードを使っていくのでもいいと思いますね。
それから、先ほどのキャンプもそうですけど、子どもとたくさん遊ぶことも、父親の役割であり、妻の笑顔につながります。究極的には「妻が笑顔で、幸せでありますように」と毎朝3回唱え続ける(笑)。これはもう理屈じゃなくて、思いで尽くすんですよ。
F 思いで尽くすか、なるほどね。確かにそういう思いがあると、「ありがとう」とか「お疲れさま」なんて言葉が自然に出てくるようになるかもしれないね。
T そうなんです。そうやって母親がいつも笑顔でいられて、精神的に安定していると、子どもの自己肯定感を高めるんですよね。
子どもが「お母さんはいつもうれしそうに見てくれているな」と思えると、子どもも自分を受け入れてもらえていると感じて安心しますし、自信が持てるようになります。
一方、母親が不安定でいると、子どもに対しても心配になって、あれこれ口や手を出してしまいます。
例えば、子どものやる気や主体性を育てるには、本人が自分で「やりたい」と思って好きになることが大切です。それを、「みんながやっているから、これをやらせないと」などと思ってしまう。
それでも、最初は興味を示して、子どもなりに楽しめるものです。そこに、母親が「もっとちゃんとやりなさい」「一緒に始めたのに、あの子の方が上手ね」といった言葉をかけてしまうと、それ自体を嫌いになってしまいます。
ニューエリートに共通する「集中力」
F 子どもが何かに夢中になっているときは、親が口を出して邪魔しない方がいいよね。そうすると、集中力が高まる。

T 集中力を磨くことも大切ですね。どんなに時代や環境が変わっても、自分でやり抜くには集中力が必要ですから。
F 今、ニューエリートの代表とされる落合陽一くんや、SHOWROOM社長の前田裕二くん、それに先ほども名前を挙げた堀江貴文くんや西野亮廣くんといった人たちに話を聞いていくと、共通して見えてくることがあるんですよ。
それが、尋常じゃないほどの集中力なんです。彼らには何か問題が起こったり、失敗したりしたとしても、それを問題とも失敗とも思わずに、何度も軌道修正しながら突き進んでいく集中力があるんですよね。
その集中力は、子どもの頃の遊びや学びの中で磨かれているということも、共通しています。
さらに彼らには「根拠のない自信」というのがベースにあって、それはおそらく、10歳くらいまでの幼少期に、母親などから圧倒的に愛された、認められた経験があるんじゃないかと思います。
だから、母親がいつも安定して、子どもを見守れることはすごく大事ですよね。

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