没入感
その少年はオンラインゲームに没入しすぎた。目が覚めると、ゲームの中の世界に身も心も引き込まれていた。
でも、何の不自由も感じない。
バーチャルリアリティーとは、よく言ったもの。仮想現実と現実の間に、ほとんど差はなかった。
快適だなぁ。
しかし、やがて、言い知れぬ違和感を抱くようになる。
快適すぎるのだ。
母さんの手料理に失敗作がない。塾通いに欠かせない自転車が壊れることもない。学校や家族の行事がある日は、決まって晴れ。
どれも、かつて過ごした方の現実では考えられなかったことだった。
あらゆる物事が、プログラム通り、デフォルト通りに運ばれる。
快適すぎるのも、考えもんだなぁ。
予期せぬことが起きるから、人は泣いたり笑ったり怒ったり悔しがったり悲しがったりする。予期せぬことが起きるから、人は工夫し、挫折し、成長する。
本当の現実とは何なのか。
やっと、少年は気づいたのだった。
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