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しわしわな梅干し

台所の片隅に壺が置いてある。
何十年もの間、ばあちゃんが梅干しを漬け続けてきた壺だ。

ばあちゃんが亡くなった後、見よう見まねで私も漬けてみた。するとびっくり。適当に塩としそを足しただけなのに、ばあちゃんの梅干しとまるっきり同じ味が再現された。

ものすごく酸っぱくて、それがクセになる味。ばあちゃんが元気だった頃もいまも、毎朝一粒、ばあちゃん子だった私は口に放り込むのが日課だ。嫌なことがあった時は、ついでに一粒。口の中、のど、そしてなぜだか不思議と心までスーっとする。

ある時、壺の奥底に一風変わった梅干しが眠っているのを発見した。ほかのとは比べものにならないくらい、ものすごくしわしわ。細い糸がぐちゃぐちゃにほつれてしまったようにしわしわな一粒。

ずっと梅干しを漬け続けてきたばあちゃんの手に、そっくりだった。

すべてがわかった気がする。

壺の奥底から、ずっと見守っていてね。

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