新入社員、豚田
かつて飛ぶ鳥を落とす勢いだったその会社は下降線をたどっていた。やり手の社長が無駄な組織や会議をそぎ落とし、徹底した個人主義、競争主義を導入して利益を上げてきた手法は行き詰まっていた。
それでもこの春も、功名心と野心に燃える大勢の新入社員が加わった。
入社式で社長が語りかけた。
「私は反省している。業績ばかりを追い求め、いつのまにか大切な何かを忘れていた。だから君たちの中にはブタがいる」
どよめきが走る。確かに一人、いや一匹だけ、窮屈そうにスーツを着たブタがいた。胸のネームプレートには「豚田」とある。
「豚田君を排除せず、みんなで手を取りあって会社に、ひいては社会に貢献してほしい」
何事も自己完結。裏腹にリアルなつきあいに不慣れ。コロナ世代、リモート世代と呼ばれる若者たちにトンでもないテーマが課せられた。
ヒトとブタの共生。
壮大なテーマではある。
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