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うちわの記憶

今年もうちわの風が心地よい季節を迎えた。
古びた、でも家族に愛されてきた1枚が我が家にはある。

紺地に大きな黄色い向日葵が2輪。子どもたちがまだ幼い頃、田舎に帰省し、みんなで出向いた夏祭りでもらった1枚だ。

古風で和風な絵柄に惹かれ、竹の骨組みが今時貴重で、捨てるに捨てられなくて持ち帰った。

こういうのって、使えば使うほど愛着が湧く。端っこが破れてもセロテープで直して、家族で代わる代わるパタパタと仰ぎ続けてきた。

例の騒ぎで今年の夏祭りは中止に。
風呂上がりにパタパタと涼んでいると、家族そろって同じ思いを抱いた。

かき氷をほおばって、盆踊りの輪に加わって。楽しかったね。

今年は残念。来年は久しぶりに行こうか。みんなで浴衣を着て。

尊い記憶という宝物が、人にはある。

こればかりはウイルスさえも蝕むことができない。
思い出に浸る一瞬に、不要不急だとか自粛だとかはどこ吹く風だ。

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