君はクロール
君のクロールを覚えている。
息継ぎなんてしない。25メートルを、ただひたすら往復する。いけるところまでいく。
体力が尽きたら、立ち止まる。肩で大きく息を吐く。
君の生き方は、プールから上がっても変わらなかった。
脇目なんて振らない。何をするにも一途。こうと決めたら、まっしぐら。
生き急ぐように時間を駆け抜けた。
水しぶきは透明で、光が乱反射していた。
いま、君のクロールは、息苦しい時代になった。
誰にだって愛想よく、要領よく、何よりコスパを第一に考えた生き方が、格好いいと思われる時代になった。
でも、だからこそ。
一度でいいから、君のように泳いでみたい。
君のクロールは、眩しかった。
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