見出し画像

君はクロール

君のクロールを覚えている。

息継ぎなんてしない。25メートルを、ただひたすら往復する。いけるところまでいく。

体力が尽きたら、立ち止まる。肩で大きく息を吐く。

君の生き方は、プールから上がっても変わらなかった。

脇目なんて振らない。何をするにも一途。こうと決めたら、まっしぐら。

生き急ぐように時間を駆け抜けた。

水しぶきは透明で、光が乱反射していた。

いま、君のクロールは、息苦しい時代になった。

誰にだって愛想よく、要領よく、何よりコスパを第一に考えた生き方が、格好いいと思われる時代になった。

でも、だからこそ。

一度でいいから、君のように泳いでみたい。

君のクロールは、眩しかった。

#短編小説 #ショートショート #詩 #エッセイ #名曲の歌詞からインスパイア #渡辺美里 #君はクロール #アナザーストーリー #400文字のショートストーリー

いいなと思ったら応援しよう!