風の絵
ちょっと不思議な少年が、不思議な絵を描いた。
キャンバスは真っ白のまま。タイトルは、風。
少年が絵筆を直接キャンバスにつけることはなかった。少し浮かせて思いのままに走らせる。すると絵筆が空気を波立たせ、紙の上に風が吹いているように感じた。だから、風。
美術の先生やクラスメートには理解されなかった。「うまく描けたと思ったのに、なぜだろう?」。少年は穴が開くほど風の絵を見つめて考えた。
すると本当に穴が開いた。その穴から強風が舞い、少年は吸い込まれた。
向こう側には広い空が広がっていて、たくさんの絵描きがその空を見上げつつ筆で風を起こしていた。そよ風、木枯らし、つむじ風。みんな、キャンバスは真っ白。でも、それぞれの絵にそれぞれの味わいがあった。
これでいいんだ。自分らしく、ありのままで。
少年はほっとした。やがて異能派アーティストとして大成功を収めることになる。
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