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Photo by
voice_watanabe
蟬の声
蟬の一生は短い。その分、人にはない特殊な能力を持っている。
種として記憶のバトンをつなぎ続ける。短い一生の間に見たこと聞いたこと感じたこと全てを、子をもうけた時に、息絶える前に、次の世代に引き継いでゆく。
だから、蟬の鳴き声には夏の記憶がつまっている。
楽しい記憶も、悲しい記憶も。
かけがえのない花火やバーベキューの記憶も、忌まわしい戦争の記憶も。
蟬時雨は、日本が積み重ねてきた夏、そのものなのだ。
そんな蟬たちにとって、人の習性は不思議でならない。「人はなぜ、忘れてしまうんだろう」
結果、歴史は繰り返される。
だから、蟬たちはあらん限りの力を振り絞って泣く。
人に忘れてほしくないから。悲しい歴史を、繰り返してほしくないから。
蟬の声には、そんな願いが込められている。