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今夜も眠れない:登場人物おおすぎな夢
どうしてこうなったのか、まったくわからないのだけれど、昼間の渋谷で焼き鳥をつついていたのだ。しかも相席に座ったのは外国人の男、日本人の男、酒豪らしき女性、そしてぼく。計4人で、なぜか初対面のくせにやたらと盛り上がっている。昼間から居酒屋というだけでも妙な話なのに、なんでぼくはこんなところにいるのだろう。まったく、夢というやつは理不尽なのだ。
まずは外国人と日本人の男が不思議な盛り上がりを見せはじめた。外国人が怪しげな投資の話を持ちかけ、日本人の男が「よし、それ乗った!」と一瞬で決断。たちまち大儲けをしたらしく、「会社を辞めます!」などと言い出すのだった。ふうん、夢ならではの超展開だ。
その勢いで外国人が酒豪女子を口説くが、あっさりフラれてしまうのだった。ぼくはその一部始終を見ながらゲラゲラ笑っている。なんだか情け容赦なく笑ってしまって申し訳ないのだけれど、これも夢だから仕方ない。そもそも自分の意志というよりも、いつのまにか笑いの渦に巻き込まれている感じなのだ。
そんなこんなで、いつのまにか4人揃って「ホテルに行ってカラオケしよう」という話になった。なんでホテルでカラオケなのかは謎である。最近の若い人たちはそういう遊びが流行っているのかもしれない。エレベーターに乗ったらドアが閉まらず、飛び乗ったり飛び降りたり、もう何がなんだか。まるで移動式アトラクションなのだった。
ところが、次の瞬間にはホステルの10人相部屋にぼくはワープしてしまう。雑然とした部屋の片隅で、ぼくは必死にノートを広げ、「いまの夢はこうで…」とメモを書き殴っているのだ。周りの人から「何を書いてるんですか? 漫画家?」などと尋ねられても、もはや説明が面倒くさい。ぼくはむっつりとペンを走らせる。夢の中で自分の夢をメモするなんて、二重構造もいいところなのだ。
するとホステルの連中がいきなり「ハッピーバースデー♪」と合唱を始めた。誰の誕生日なのだろう。ぼくがとりあえずパチパチ拍手していると、今度は大掃除を始めるではないか。全員が無言で雑巾やモップを持って立ち上がり、さっさか動き回る。その場にい合わせたぼくは、仕方なく加わることにしたのだった。下手にサボると夢の住人に怒られそうだし、メモを見られると恥ずかしいしで、ひとりオロオロする。
さらに奇妙なことに、ホステルを出たら、そこには高名な柔術家が佇んでいた。「キミにはキムラロックを伝授しよう」と言われ、あれよあれよという間に技を教わる展開。常識的にはかからないはずなのにスパッとかかってしまう。ああ、やっぱり夢というのはオールフリーなのだ。
そこからはもう、ただのカオスである。二子山部屋の力士とすれ違い、国立競技場の前を歩き、馴染みの服屋の店員と合流して「そういえば、あのとき買った財布はいま妻が使ってましてね」などとのん気な世間話をしているうちに、目が覚める。時計を見れば朝の5時。なんだこれは。夢の酔いがまだ冷めていないような、不思議な感覚なのだ。
ぼくは不眠症というやつで、夜になるとどうも神経が昂って眠れないことが多い。まぁそれでも、こうして奇妙な物語を毎晩見られるのなら、それはそれで悪くないのかもしれない。昼間の渋谷であんこをこぼしながら大笑いし、ホテルのエレベーターで飛び降りごっこをし、ホステルで誕生日でもないのに拍手し、大掃除まで参加して柔術家に投げ飛ばされる。現実だったらいろいろと大惨事だけど、夢ならば誰も文句を言わない。夢万歳なのである。
そんなわけで、ぼくの「今夜も眠れない」生活は続いていく。いつか本当に朝までぐっすり眠れる夜が来るのだろうか。そのときは、この奇妙な冒険が終わってしまうのかもしれない。とりあえず今夜はまた新たな夢世界への旅支度として、枕元にノートとペンを置いておこう。どうせ眠れないなら、あやしい投資話でも大歓迎なのだ。次はどんな珍客が登場するのか、ちょっと楽しみでもあるのだった。
あとがき風
こうして振り返ってみると、夢のあちこちに不可解なトンボ返りがあるのだけれど、それを一本のストーリーとして味わえるのが夢の面白さだ。
本日のまとめ:「居酒屋とカラオケと柔術家、それに相部屋の大掃除を混ぜるとこうなる。」まったく統一感はないけれど。