今こそ、DA PUMPを「音楽」で語ろう!
最近、DA PUMPの楽曲がオーディション番組の課題曲に選ばれたり、人気コンテンツのグループにカバーされることで、これまでDA PUMPをあまり聴いてこなかったという方々が実際にDA PUMPの原曲を聴いてみて「DA PUMP/ISSAって、すごい」と感想をつぶやいているところをTwitter等でよく見かけるようになった。
筆者は、ずっとずっとDA PUMPが好きなので、この現象は本当に嬉しい。そうなるとファンとしては、もっと「欲」が出てくるもので。「もっともっと、DA PUMPの凄さを、「音楽」という切り口から知ってもらえたらー」…
そう思い、企画を立ててみた。その名も、「今こそ、DA PUMPを「音楽」で語ろう!」。DA PUMPの素晴らしさを、「いちファン」として知っている限りの知識で語ってみようと思う。
注:以下、人物名は敬称略
クリエイティブ集団「DA PUMP」と凄腕ミュージシャン
DA PUMPというと、ISSAの歌唱力の高さやメンバーのダンススキルの高さに注目されがちだが、もう一つの顔がある。それが「クリエイティブ集団」としての顔だ。いつの時代のDA PUMPでもそうだ。
「音楽」をテーマに語るので、短めに紹介するが、例えば、KENZOは以前からコレオグラファーとしても活躍している。
TOMOは動画編集や振付など、とにかく多彩な才能がある。そんなTOMOの才能が凝縮されている動画で、筆者のお気に入りがこちら。
avexの後輩アーティスト「lol-エルオーエル-」の新曲への振付動画。企画力・動画編集力の高さと、振付師としての卓越した技術などがぎゅっと凝縮されている動画だ。
U-YEAH(ユーヤ)は、プロ顔負け(というか、もはやプロ)のデザインのセンスがあり、DA PUMPのツアーグッズを数多くデザインしている。最近ではDA PUMP公式キャラクター「DA PUMKEY(ダパンキー)」のデザインを手掛けている。
現DA PUMPでラップパートを担うKIMIもニューアルバムで楽曲をプロデュース、YORIは高い歌唱力でコーラスを披露することもある。DA PUMPはとにかく各メンバー、多才なのだ。
ここで、話を「音楽」に戻す。DA PUMPの音楽面でのクリエイティビティーについて考えるには、4人時代のDA PUMPまで振り返る必要がある。
DA PUMPは1997年6月11日、プロデューサー富樫明生(m.c.A・T)のもとシングル『Feelin' Good -It's PARADISE-』でデビュー。メンバーはISSA・KEN・YUKINARI・SHINOBUの4人。全員沖縄県出身、安室奈美恵・MAX・SPEED・Folder(三浦大知・AKINA・満島ひかりなどが在籍)などを輩出した沖縄アクターズスクール出身である。
デビューするやいなや、シングルは立て続けにヒット。ISSAは近年「最初の頃は忙しすぎて、将来のことを考える余裕がなかった」と語っている。
そんなDA PUMPに変化があったタイミング。筆者の中では2000年頃、シングルで言えば、『I wonder...』『Com'on! Be My Girl!』のあたりだ。
発声できる音域が広がる、歌に深みが出るなど、ISSAの歌唱力がもともとのポテンシャルの高さからさらに飛躍的にアップしたのがこのタイミングだったと考えている。
また、この頃、メンバーのYUKINARIに「楽曲制作」という趣味ができた。DA PUMPは先述の「忙しかった」時期にパーソナリティーを務めていたラジオ番組で、KENを中心に洋楽や邦楽を幅広く紹介していた。今のようにインターネットが発達していない時代である。自ら動かないと情報は手に入らない。相当音楽が好きなのだろうな、とラジオを聴きながら思っていたものである。
そんな音楽好きな部分が「楽曲制作」という趣味に繋がったのだろうということは容易に想像できる。YUKINARIは制作した楽曲をファンクラブイベントで披露した。その楽曲制作にコーラスとして力を貸したのが、DA PUMPのボイストレーニングを担当していたJINであった。
JINの本名は「橋本仁」。平成仮面ライダーシリーズ最初の作品『仮面ライダークウガ』のエンディングで、特撮ファンからは「名曲」との評判も高い『青空になる』を歌ったシンガーだ。オルケスタ・デ・ラ・ルスなどのグループでも活躍している。DA PUMPでコーラスを担当するのも、A・T、JINにTOMMYを加えた3人で構成される「BETCHIN'(ベッチン)」である。
YUKINARIをはじめ、各メンバーがそれぞれ音楽へのクリエイティビティーや実力を育んでいき、ついにその成果が世に出るタイミングがやってきた。
それが、『CORAZON』。ヒップホップMC・音楽プロデューサーSKY-HIが手掛ける新たなオーディション番組『MISSIONx2(ミッション・ミッション)』で課題曲に選ばれた楽曲だ。
『CORAZON』のクレジットは以下の通りである。
長部正和は、当時のDA PUMPの事務所の後輩にあたるグループ「FLAME」の楽曲などを手掛け、テレビ番組などの劇伴などでも活躍する音楽作家。今井了介は音楽会社「TinyVoice, Production」を主催する音楽プロデューサーで、DOUBLE『Shake』、SUITE CHIC(安室奈美恵と音楽プロデューサーによるプロジェクトユニット)『Just Say So』、w-inds.『New World』など、代表曲を挙げればきりがない。近年では、「NHKラグビーワールドカップ」のテーマソングにもなった、Little Glee Monsterの『ECHO』を手掛けたことでも知られている。
長部・今井を楽曲制作に迎えたのは、富樫明生プロデュース一色だったこれまでのDA PUMP楽曲に「新しい風」を吹き込むためだったのではないだろうか。また、この楽曲では、ISSAとKENが作詞に加わり、世に出るクレジットとしてメンバーの名前がシングル表題曲にしっかり表記されるようになった。この作詞のコンセプトはISSAによるものだそうだ。歌詞全体を纏う「切なくも熱い恋心」はISSAが歌うからこその説得力がある。この世界観に、DA PUMPチームはこんなキャッチーなフレーズ・歌詞を生み出した。
口によくなじむキャッチーなフレーズは、①同一(類似)メロディーの反復②ライミングによるものだ。それだけなら、別の歌詞でも可能かもしれない。しかし、「melancólico(メランコリック)」「triste(悲しい)」「corazón(心)」はスペイン語だ。さらにここに、畳みかけるように日本語の「まだ虜」である。この4文節でサビに入るまでの部分までに描かれた「恋を失った男の悲しみ」が一気に爆発するのだ。ラテンフレーバーなトラックだからこそ、スペイン語を歌詞に取り入れたのだろうが、2つの音符(ミとラ)、3つの反復メロディーに4つの文節(スペイン語+日本語)、そしてレッド・ツェッペリン『天国への階段(Stairway to Heaven)』イントロに代表されるベースラインクリシェ(ベースラインは半音ずつ下がりながらコードが進行していく)で哀愁感を漂わせ、ギターとパーカッションの生音で、より華やかにラテン色に楽曲を染めていく…当時のチームCORAZONは、それぞれがそれぞれの役割でできるものを持ち寄って、最高の楽曲を完成させたのだ。
これこそクリエイティブと言えるのではないだろうか。KENのラップリリック及びフロウも楽曲の雰囲気に合った見事なものなので、ここはライミングも含めて、ラテンのリズムに合わせて聴いて感じて頂きたいと思う。また、ここでパーカッションを導入したことが、のちのDA PUMP楽曲に大きな影響を与えていくことになる。
そして、この『CORAZON』も収録されたアルバム『the NEXT EXIT』。特徴としては、ストリングスやホーン、パーカッションといった生音を取り入れた楽曲が増加したことだ。同時にメンバーがクレジットされる楽曲も増加した。
『Dragon Screamer』はアニメ『キャプテン翼』オープニングテーマ。
YUKINARIが作詞に参加している。「Dradon Screamer! 昇る龍のようだ」や、タイアップを大きく匂わす「翼を手にした君は どんな山をも越える」などのリリックが、ドラの音も鳴るようなトラックの中でとても熱い。
純度100%の今井了介の大人アレンジを楽しみたい方はこちら。途中のISSAの高音フェイクの素晴らしさに、とにかく震えていただきたい。
そして、このアルバムの発表を終えたDA PUMPに、さらなる大きな転機が訪れる。初のセルフプロデュースシングル『Night Walk』を発表したのだ。表題曲のアレンジャーには、元T-SQUAREの松本圭司を迎えた。
松本の近日の仕事としては、AIボーカル楽曲『はいダウトJazz』のアレンジがある。
そして、この『Night Walk』には、スタジオミュージシャンとして、日本ジャズ・フュージョン界の凄腕ミュージシャンが集っている。以下、『Night Walk』のクレジットである。
いかがだろうか。『Night Walk』のスタジオミュージシャンから見えてくるのは、T-SQUARE、米米CLUB(BIG HORNS BEE)、熱帯JAZZ楽団、塩谷哲などの日本ジャズ・フュージョン界におけるミュージシャンの相関図だ。
全員が凄腕ミュージシャンだ。何名か紹介したい。注目ミュージシャンとしては、ギターの田中義人を挙げたい。
田中義人は大沢伸一との出会いから、MONDO GROSSOのアルバム『MG4』に参加したミュージシャンで、あの『LIFE feat. bird』の中で、印象的なギターを奏でている方である。
さらには、宇多田ヒカルのアルバム『Fantôme』収録曲の『二時間だけのバカンス featuring 椎名林檎』『ともだち with 小袋成彬』にてアコースティックギターを担当しているのが田中である。
フリューゲルホーン担当の小林太といえば、米米CLUBホーンセクション「BIG HORNS BEE」の「フッシー小林」として知られる。DA PUMPの楽曲には、すでにアルバム『the NEXT EXIT』収録の『Everybody Join Us (in The Party)』のブラスアレンジ&トランペットで参加している。
パーカッションのMATAROも先述の『CORAZON』にすでに参加している。スタジオミュージシャンやライブサポートメンバーとして参加した数は数えきれない。
これらを踏まえて、是非『Night Walk』を聴いてみていただきたい。プロの妙技、DA PUMPのボーカルパフォーマンスによるハイクオリティな楽曲を堪能できるはずである。
ここまでDA PUMPの「音楽」と、それを支える凄腕ミュージシャンを紹介してきた。凄腕ミュージシャンや新進気鋭の音楽作家が参加したから凄い、だけではない。むしろアーティスト自身が音楽を深く愛し、自身が表現したい音楽に必要なものは何なのかを考え実践し、彼らのために協力を惜しまなかった周囲の人々やスタッフがいた。その結果、素晴らしい楽曲がパッケージされたということに価値があるのではないだろうか。
本や雑誌、プロジェクトと一緒だ。スタジオミュージシャンが参加した楽曲は数百どころか人によっては数千曲以上だろう。正直、スタジオ入りしたら難なく演奏できる技術の持ち主であるはずだし、その一つひとつのレコーディングの時のことは覚えてないという方が多いだろう。しかし、大切なのはそのことではない。もしかしたら、一生に一度かもしれない機会、ご縁の中で、一つの作品を作り上げるという行為はサポートを受けるアーティストにとって今後の人生にとってとても貴重なものだろうし、その作品で人生が劇的に変わってしまうくらいに人に影響を与えるかもしれないのだ。だからこそ、形として残るということは、とても大切なことだと筆者は考えている。
『Night Walk』の次に発表されたシングル『GET ON THE DANCE FLOOR』も、表題曲、カップリングともにファン人気の高い素晴らしい楽曲だ。表題曲と2曲目の『BRIGHT ME UP!』はロックバンド「ZZ」との共作である。表題曲には、先述のパーカッショニストMATAROも参加している。
『GET ON THE DANCE FLOOR』のクレジットでもまた、素晴らしいメンバーが揃っている。
この曲は音も凄いが、MVが本当に素晴らしい。ファンキーな音楽とDA PUMPが作り出すわちゃわちゃ感と真骨頂のダンスを是非楽しんでいただきたい。
2曲目の『BRIGHT ME UP!』は、DA PUMPとZZが組むと、こんなミクスチャーロックができてしまうのかという衝撃作。ISSAの歌声にも、いつもと違う深さと勢いがある。
ここで、DA PUMPのクリエイティブ面における重要人物SHINOBUの登場である。SHINOBUは三線を演奏することができる。その能力がDA PUMPに持ち込まれることにより、この後、唯一無二の傑作が生みだされる。
それがDA PUMP初の完全セルフプロデュースアルバム『疾風乱舞 EPISODE II』である。
傑作アルバム『疾風乱舞 EPISODE II』
ここまでの話の流れを組むような、総勢30名を超す凄腕ミュージシャンを迎えて制作された意欲作だが、これまでと違うのは、「編曲」にDA PUMPのみがクレジットされる楽曲が増えたことである。そんな曲では、コード進行、コーラスワークなど自分たちで考え、打ち込みや楽器演奏なども自分たちでほぼ全て行っている。
そして、最大の特徴は、自分たちのルーツである「沖縄(琉球)」に正面から向かい合い、琉球音楽とダンスミュージックやゴスペルなどを融合させるという試みを行っていることである。まさに『琉STYLE』で語られる「Respect 先人のRoots Music!」、『GET ON THE DANCE FLOOR』で語られる「温故知新が伝える何か」である。
ここでもいくつかアルバム楽曲を紹介したい。まずは『Caliente Baile』。
ここでもやはり、日本ジャズ・フュージョン界の凄腕たちの名前が並ぶ。神保彰の情熱的なドラミングをはじめ、各楽器の名手たちの演奏が絡みに絡み合う。初期のDA PUMPを支えたJINはオルケスタ・デ・ラ・ルス所属でもある。これまでの流れや周囲の協力という「ご縁」もあったのだろう、今度は自らの手でラテンを表現したのだ。
作詞・作曲・編曲、全てDA PUMPのクレジット。KENは影のプロデューサーの役割だったのではないかと思う。ISSAと言えば、光り輝くような高音、というイメージがあるが、当時のKENは「ISSAの声は低音にこそ魅力がある」と言い切っていた。そのため、セルフプロデュース曲では高音を出さない曲も目立つのだが、この曲のISSAの中低音の声は絶品である。
オルガンの音が鳴るゴスペル風のピースフルな音楽に三線の音が鳴る創造的な楽曲。なお、avexにKENの書いたライナーノーツが残っているが、この『Your Song』においてSHINOBUの創造性を絶賛している。
このアルバムの制作を通して、DA PUMPには間違いなくクリエイティビティーと互いへのリスペクトがあった。だからこそ、この傑作アルバムが生まれたのではないかと思う。
そしてアルバムは琉球色を前面に打ち出した『轍 -WADACHI-』『波風 NAMIKAJI-』と続き、静かに終了していく。
本当に素晴らしいアルバムだと思う。余談だが、ダンスボーカルグループのメンバーに、DA PUMPの音楽を高く評価する人物がいる。Da-iCEのリーダー工藤大輝だ。
工藤も音楽を深く愛し、楽曲制作を行うダンスボーカルグループのメンバーだ。歌詞カードも昔からクレジットをしっかり読み込むという話を聞いたことがある。この『疾風乱舞 EPISODE II』がとても好きなことが、どんな媒体からも伝わってくる。
こうして書いてみて改めて思ったことだが、DA PUMPの創造性が一気に開花したのは富樫明生プロデュースを離れてからではあるが、デビューからDA PUMPと共に歩み、音楽で自己表現をすることに興味を持ち始めたDA PUMPに寄り添い少しずつ手ほどきやアドバイスをしていたm.c.A・TやBETCHIN'の面々、そしてやはり本人たちの「旅立ち」を優しく見送った富樫明生の存在がやはり大きいのではないか。富樫明生(m.c.A・T)がファンから「師匠」と呼ばれて慕われている所以である。幕張メッセで25周年ライブが行われた際、m.c.A・TとBETCHIN'が登場した時は涙でぐちゃぐちゃになるくらい嬉しかったことを覚えている。
ところで、今回の企画を立てた時に、ふと思い出したことがあった。
SKY-HIこと日高光啓も所属するAAA(トリプルエー)のファーストアルバムにおいて、DA PUMP楽曲を提供していた作家(m.c.A・T、SOTARO@ZZ)が被る点が気になって、歌詞カードを見比べてみたところ、チーフディレクターが一緒だった時期があった。
当時、avex第4制作部だった石森洋。avex退社後、ZZも所属する「ユークリッド・エージェンシー」に転職した人物だ。一般的にはゴールデンボンバーの所属事務所として知られている。
ここまでの話と、AAAのシングル・アルバム発売日をまとめてみた。当時のDA PUMPの楽曲制作の要素の一部がAAAのデビュー時に流れているような印象を受ける。
AAAのファーストアルバム『ATTACK』のクレジットの中に出てくる、DA PUMPの上記時期の作家・スタジオミュージシャンを簡単にまとめてみる。
『ATTACK』は筆者が元々大好きなアルバムだ。AAAも歌唱力が抜群に高い(AAAのボイストレーナーもJINである)。上記を踏まえて改めてトラックの音の一つひとつに耳を傾けながら聴いてみると、音がとにかくよくて、メンバーの歌唱も相まってキラキラが溢れ、圧倒されて泣いてしまった。最高のポップアルバムだと個人的には思うので、お持ちの方は是非聴いてみていただきたい。
avexと仮面ライダーシリーズとダンスボーカル曲の系譜
ここまで語ってきた中で、もう一つ年表にまとめてみて、やっぱり激アツだと思ったのが『仮面ライダーシリーズとダンスボーカル曲の系譜』だ。
DA PUMPとAAAのボイストレーナーを務めたJINが主題歌を歌う『仮面ライダークウガ』から平成仮面ライダーシリーズが始まり、その後、DA PUMPとAAAも主題歌を担当するようになり、さらには彼らの後輩たちもどんどん主題歌を担当するようになっていった。しかも、ただ担当するだけではなく、作詞や作曲などの楽曲制作に積極的に携わるようになっている。今後の活躍もますます楽しみだと思わせてくれる。
なお、年表にDA PUMPの『U.S.A.』を入れている。おそらく『U.S.A.』の空前のヒットと『仮面ライダージオウ』主題歌のISSA投入は無関係でないからだ。当時は色々な意見があっただろう。しかしながら、avexという「祖父母」が一緒の「いとこ」のような関係(所属事務所・レーベルが違う)のDA PUMP(ISSA)とAAA(末吉秀太※「Shuta Sueyoshi」は末吉のソロ時の名義)のメンバーが、同じトレーナー、平成仮面ライダーシリーズがスタートした作品の主題歌を担当したシンガーの元で育った者同士で一緒に仮面ライダーシリーズの主題歌を担当したという事実が個人的には嬉しかった。
現在のDA PUMP楽曲は…
さて、話をもう一度DA PUMPの「音楽」に話を戻す。
近年のDA PUMPと言えば、2018年の『U.S.A.』のメガヒットが世間一般的には知られているだろう。
『U.S.A.』の大ヒット後に、様々な批評文が出た。一つひとつが素晴らしい考察で、その道のプロでないと書けない文章であった。しかしながら、『U.S.A.』は空前の大ヒットがなければ、そもそも論じられる対象としての土台に立つことができたなかったのではないだろうか。大ヒットそのものは結果論でしかない。『U.S.A.』リリースに関して、当時のDA PUMPメンバーやファンが感じていたことは、KENZOのエッセイ『GIFT』に記されているので、興味のある方はお読みいただきたい。
それよりも『U.S.A.』の空前の大ヒットに関して、筆者が個人的に挙げたいポイントが2つある。
ひとつは、現在は惜しまれながらDA PUMPを卒業した、当時のメンバーDAICHIの存在だ。
DAICHIは、当時のメンバーとしては最年少で、いつもニコニコしていて人懐っこい、それでもいざダンスとなると、ジャジーなダンスでファンを魅了してくれたダンサーだ。イベントで見る時は、「DAICHIでーす!」と元気に観客に呼び掛けてくれた人物である。
上記の論考の中にもあったが、確かに一般的なイメージとして、「DA PUMP」は「ISSAありきのチーム」かもしれない。しかし、ダンサーとして確かな高い技術があるメンバーとして、そのように言われる・思われるという事実は当時どれほどのプレッシャーだったのだろうか。
それでも、DAICHIはいつでも笑顔を絶やさなかった。『U.S.A.』初のお披露目は、2018年5月5、6日に行われたライジングプロダクションが主催するライブイベント『RISINGPRODUCTION MENS ~5月の風~ 2018』の時だった。その初お披露目の際に、DAICHIはにこやかにこう言ったのだ。「指をこう、「いいね」の形にして振ってください!」ー所謂「いいねダンス」の誕生の瞬間だった。(※『5月の風』は各日程2回転、計4公演行われていた。筆者が見たのは、2日目の後の日程)
つまり、様々な偶然が重なって広く世間に知られるようになった、あのダンスのキャッチーな名称はDAICHIの明るいキャラクターと機転によるものなのだ。その貢献度は計り知れない。これも、まさにクリエイティビティーだ。
卒業したDAICHIに触れたので、補足としてもう一人卒業したメンバーについても紹介したい。
KAZUMAこと山根和馬。主に悪役で活躍する俳優で、同様に悪役として活躍する俳優の阿部亮平と「純悪」というユニットを組み、様々な方面、特に動画で活躍している。
木村拓哉が出演する『WINNER Jリーグ開幕篇』の動画にも登場している。
話を『U.S.A.』に戻そう。二つめのポイントはやはり、作詞を担当したshungo.の存在だ。
shungo.の別名義は「HIMK」。SPEEDのプロデューサー伊秩弘将が主催する「HIM」のメンバーである。そこから、職業作詞家への道を歩みだした人物だ。
HIMの『AQUARIUS』のカバーをしたのが、MAXである。ただし、タイトルは『銀河の誓い』として発表された。MAXらしい勢いのある楽曲に仕上がっている。
HIMの縁から、shungo.はDA PUMP、MAX、SPEED、三浦大知、w-inds.、Lead、BuZZ等が所属する「ライジングプロダクション」のアーティスト楽曲の作詞を多く手掛けるようになる。その中でも、相当数の楽曲を提供したアーティストとして欠かすことのできないのがw-inds.だ。
w-inds.の『Long Road』は、音楽評論家の近田春夫がとても高く評価している楽曲で、詞の内容に関しては、「君たちも大人になればこの歌詞の意味が分かるよ」というメッセージを残したくらいの超名曲である。
そして、shungo.は、当時のDA PUMPとしては久しぶりのリリースとなる『U.S.A.』の作詞を担当することになった。
記事を読むと、震災復興などにも熱心に力を注いでいて、作詞センスに関しては流石「言葉の魔術師」とも言えるshungo.だ。『U.S.A.』の詞に関しても、世間で語られている以上の意味が込められているに違いない。
だから、注目したいのは、『U.S.A.』が「作詞」というよりは、「訳詞」だというところである。
ジーン・ピットニーが、1961年に発表した楽曲である。日本では、飯田久彦によってカバーされたバージョンが1962年に大ヒットした。この曲に詞をつけたのが漣健児である。
原曲は、ニューオーリンズから来た「ルイジアナ・ママ(※「mama」はイカした女性というニュアンス)」への憧れの気持ちを表現した曲だ。何かと似ていないだろうか、『U.S.A.』も「アメリカ」に対する憧れについて歌った歌だ。時代も1960年代・1970年代という違いこそあるものの、当時のアメリカといえば激動の社会背景の中で様々な文化が生まれた時代だ。
漣健児が訳詞した『ルイジアナ・ママ』の歌詞を一部取り上げてみる。
「訳詞」という、原曲で使用されている言葉を残しつつ韻を踏んだり、原曲とは違った世界を表現するという文化は1960年代から存在しているということだ。そんな文化が脈々と現代に受け継がれて、現代の時代においてshungo.により表現されたものが『U.S.A.』と言えるのではないだろうか。「フロムニューオリンズ(from New Orleans)」と「ジパングで(in Japan)」。どちらの訳詞も、過去と現代で「アメリカ」の情景を違う視点から切り取った見事な訳詞と言えるだろう。
『U.S.A.』のヒットもあり、現在DA PUMPは作詞や作曲をメンバー自身でほとんど行っていない。それはやはり、shungo.をはじめ、「DA PUMP」が発したいメッセージを表現できる職業音楽家たちの存在が今は大きいからだと筆者は考える。
そのことをよく表している楽曲として、最新アルバム『DA POP COLORS』の中で、shungo.が作詞した『C'mon & Knock Me Down』を取り上げたい。曲調は、ニュージャックスウィング。富樫明生(m.c.A・T)プロデュース時代のDA PUMPを象徴するリズムである。
そのことを踏まえて、『C'mon & Knock Me Down』の歌詞のキーワードを取り上げてみる。
当時のダンスやファンクなどにおけるミュージックシーンを表すキーワードばかりだ。これらを盛り込み、そのうえで韻を踏みまくる遊び心を見せながら、メロディーが持つ限定的な音数の中にアーティストが込めたいメッセージを十二分に表現する。shungo.は、短歌や俳句という文化を生んだ日本において、本当に「言葉の魔術師」だと唸らずにはいられない。
「Knock Me Down」は、レッドホットチリペッパーズ『Knock Me Down』の「If you see me getting mighty If you see me getting high Knock me down」の部分のオマージュであろうか。shungo.によってDA PUMP版に「訳詞」されたものが以下のものである。
このフレーズを歌うISSA、そして他のメンバーの覚悟は如何ほどのものだろうかと思うと、涙せずにはいられない。また、「Pump It Up」は初期DA PUMPのファンクラブの名前である(「Knock Me Down」と韻も踏めている)。その上で、「君はひとりじゃない」「大丈夫」と言ってくれるのである。『C'mon & Knock Me Down』は長年DA PUMPを応援してきて本当に良かったと思わせてくれる楽曲だった。
これまでたくさん語ってきたように、その気になれば作詞・作曲・編曲・プロデュースの全てを自分たちで行うことが可能なメンバーが揃っている。いつか、本当に本人たちがもう一度やってみたいと思えばやってくれるだろう。本人が自らプロデュースするのも、職業音楽家にプロデュースを託すのも、どちらも尊いと筆者は感じている。今後もDA PUMPの動向を追っていきながら応援していきたい。
…と、企画的にはここで話を締めようと思ったところで、すごいニュースが入ってきてしまった。
『U.S.A.』以降のDA PUMPの楽曲をいくつも手掛けている「MASAT」こと宅見将典がグラミー賞「最優秀グローバル・ミュージック・アルバム部門」を受賞してしまったのだ。
これにはファンも、おそらく事務所も慌ててしまい、急遽ISSAがコメントを出すことになった現象には思わず笑ってしまった。
図らずも、「今こそ、DA PUMPを「音楽」で語ろう!」の最高の締めの話題になった。
これからも、DA PUMPの「音楽」を存分に楽しんでいきたいと思う。