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僕が広告から足を洗った日
今日は仕事の祝日(なんだろうなこれ)なので、いつもと違う話。
今年、自分の事務所のサイトをリニューアルした。常時SSL化とかHTML5対応、レスポンシブ対応とかの最適化諸々。え、今ごろ? と思われるかもしれないけど。
まあ、ライターの業務サイトなんてほぼ一般には見られないし需要もないのでいいんだけど、本当はちゃんとCMS載せてオウンドメディアにしたい。
それはともかくリニューアルに伴って今までの仕事実績(主に書籍だ)データも引っ越すというか移行させないといけなくなった。これまで妻がチクチクと手縫いじゃなく手作業で拾ってサイトに載せてくれてたのだけど、まあまあの数になっている。
構造化されてないデータ(手作りの味)なのでそのままうまく移行できない。ちゃんとしとけよという話なんだけどすみません。いい機会だし、
これまでに手掛けた書籍のデータをCSVで吐き出して移行できるようにしました。
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なにしろこれまで新しく本を書いたらサイトに1冊ずつ追加で建て増ししてたので、ジャンルの仕分けもルールがあるようなないようなだし、何冊やったのかもよくわかってない。
で拾い出してみたら100冊ほど。2010年からいまの形態でふみぐら社を妻と立ち上げ、約8年で100冊。多いのか少ないのかはよくわからない。もちろん本への関わり方もいろいろなので、企画からリサーチ、取材、構成、執筆とすごく時間のかかったのもあれば、共同執筆者がいて何章から何章まで担当したのとか含めての数だ。
その中には、自分でも「あれ、この本やってたんだ!」とナチュラルに驚く(おい)のもたまにあったりする。
いや、手を抜いたとか(それは絶対ない)、存在が軽いとか(それもない。どの本もかたちになる以上、何かしらの意味がある)、単に僕の記憶がポンコツだから(それは少しある)とかではたぶんなく、少しずつ自分でも「ここに命というかエネルギーを使いたい」という部分が移ってきているからだ。
そもそも、僕も最初から書籍ライティングをしてきたわけではない。
最初はリクルートで広告制作をしていた。企業の採用(リクルーティング)広告だとか、就活生向けに大量投下されるいろんな媒体や企業パンフレット、採用パンフレット、そこから派生してブランドコミュニケーションのためのツール、大学や専門学校なんかの広報ツール、リクナビと連動したプロモーションサイト云々。
レジュメじゃないので全部は書かないけど、まあいろいろやってた。「仕事の報酬は仕事」という環境だったのでとにかくやることはシベリアからの大寒波がもたらす雪のように一晩で降り積もる。
そんなとき、ある芸術系大学の学校広告をつくることになり僕がコピーを担当した。媒体はポスターとか雑誌やパンフレットとかいろいろあったと思う。
当時、国内だけでなく海外でもいろいろデザイン関係の賞を取っているアートディレクターも入った仕事で、僕としても打ち合わせ時点からどんなものになるのか楽しみながらやっていた気がする。
広告コピーをつくるのもいろんなやり方があるけど、このときは最初に全体のシリーズコンセプトをつくり、それにアートディレクターがデザインラフを切って(なぜか、編集系ではラフを描くのを切るっていうね)、そこにコピーを乗せていった。
なかなか、その大学らしい攻めたデザインが見えてきて、僕の書いたコピーもはまった。ように見えた。
コンセ(簡易校正のことだ)を見たとき、僕は決定的な間違いをしていたことがわかった。いや、正確にはうすうす気づいていた。
僕の書いたキャッチコピーが明らかにデザインの邪魔をしていたのだ。邪魔といっても、見た目的なことではない。一見すれば、ちゃんと「コピーが立っている」。けれども「これ、いらんやん」と思った。
僕のコピーが一文字もなくても、唯一無二なアートデザインと大学ロゴだけでちゃんと成立している。理屈じゃなく、このちょっと独特なスタンスを取る芸術系の重力場がそこにはできていた。
その宇宙では僕のコピーは打ち上げに失敗した衛星みたいに、軌道を外れたまま回収もされずただあてもなく漂っているようにしか見えなかった。
あとから、何かの広告賞にもエントリーされたみたいだけど、そのときも審査員の何人かが「これ、コピー要らないね」と言ってたらしい。
それっきり、僕は広告から足を洗った。
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ただ、付け加えると、その仕事がきっかけでということではない。いずれにしてもそういうタイミングだったのだ。たまたま、そのときその仕事をしたというだけのことだ。
それがなければ、きっと本を書く仕事、書籍ライティングの世界には入ってないんじゃないかと思う。それがよかったのかどうかなんて誰にもわからない。
仕事にはそういうことがある。まるでいつかの恋みたいに、あんなに好きだったのに何気なくフェードアウトすることがあるのだ。好きが消えたわけでも、嫌いになったわけでもなく。