人生はずっと不登校
学校に行きたくないな。そう思う朝があった。
べつに何かあったわけでもなく。
クラスに居場所がないとかでもない。なんだろう。きょうは学校行くより大事なことがあるんじゃないか。透明な空気を写真に撮りに行くとか。
そんな気持ちが突然自分の中にあるのを発見するのだ。すると、途端に本当にきょう学校に行くべきなのかなという疑問がもたげてくる。
でもまあ、そんなの周りの人には理解もされない。それもわかってる。不登校につながるサボりと言われればそうだけど、そういうのでもないんだけどな。
あの頃もうまく説明できなかったけど、いまも説明はできない。描写することが少しできるようになっただけで。
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なんなら大人になっても、そういう気持ちがあることに自分でも驚く。
ある日の朝。何週間も前から決まっていた予定をこなすよりも、全然ちがうことに気持ちが動きそうになる。
分別がついて社会的に生きるってどういうことかを学んでるにもかかわらず。
あ、きょうは本当はこっちじゃなくてこれをするべきなんじゃないか。コロポックルと約束した木の実を探しに行くのにいい日なんじゃないかとか。
もちろん、本当にそんなことをしたら各方面に多大なご迷惑をかけることになる。自分の信用だって失う。だから、しません。そんなことは。
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駅に向かう色を失くした流れの中で、誰もが「役割」とその日の「タスク」を身にまとって足早に改札へ向かっていく。
経済快速がホームになだれ込む。ドア付近に固まらず車内中ほどへお進みください。
押し込まれた車内で、つり革にぷらんと腰かけたコロボックルと目が合う。
「森で待ってたんだ。でも来ないから」
「なかなか難しいね」
自分でももっと他に言うべきことはあるだろうと思いながら、ついそんなことを口走る。
「責めてるわけじゃないよ。わかってる」
コロボックルはつり革の輪の中にくるんと体を滑らせて言う。
そう言えば、最近の電車のつり革は三角のものが多いから、丸いタイプのつり革の電車のほうがコロボックルも好きなのかもしれない。
「また、きっとこんど」
「そうだね、いつでも待ってるよ」
それだけ言うと、コロボックルは身をひるがえして電車の天井のどこかに消える。
きっと、こんどがいつになるのかはわからない。でも、それを嘘にはしたくない。
少なくとも、あの朝、きょうは学校に行くより大事なことがあると感じたときの気持ちを、いまも持ってることは本当なんだ。