ファンキーなじいちゃん。
うちは三世帯家族でした。でしたというのは祖父母がもうなくなってしまったから。なかなかに個性のぶつかり合いというか、似たところがあまりない、人間が6人も一緒に暮らしていたもんですから、やはりなかなか大変でした。表立って喧嘩はないけれど、雰囲気が悪いなんてことは日常茶飯事で。そんな一家のトップに君臨していたのがじいちゃんだったかなぁと思います。今日はそんなじいちゃんのおはなし。
じいちゃんはとにかく新しいものが好きで、真面目でした。新しい機械、新しい食べ物。割合何でも食いついて来ます。カメラが好きで、かっこいいフィルムカメラを持っていました。あんまり撮る機械はなかったけれど。
元々薬剤師で、薬に詳しかった。80超えても新しい薬の手引きを買っては新薬を学んでいる本当に真面目なじいちゃんでした。
特に覚えているのは言葉遣いに厳しいこと。すごいという言葉に過敏に反応していました。
「すごい綺麗じゃなか、すごく綺麗。」
形容詞の活用に厳しくて何度もテレビに向かって若いタレントに注意していました。結構本気で怒っていました。
そんなじいちゃんが、得意げにフランス語ば教えてやるけんとおしえてもらったのが、“饅頭はオストゥアンデル、蛇口はヒネルトゥジャァ”。フランス語なんておしゃれな言葉教えてもらって、僕はルンルンです。じいちゃんすげぇ、フランス語もできるったい。と。お母さんにそれを得意げに話すと爆笑されました。あんたはじいちゃんにからかわれとると。
オストゥアンデルは押すと餡出る。
ヒネルトゥジャァは捻るとジャー!
だったのです。わざわざフランス語っぽい発音にして教えられた。やられた。振り返ると、じいちゃんはほくそ笑んでいました。人間がほくそ笑む瞬間を初めて見たのはあれだった気がします。網膜に今でも焼き付いています。
あともう一つ。じいちゃんの好物のはなし。それはファンタグレープ。明治生まれのじいちゃんの好物はファンタグレープです。そう。あのしゅわしゅわの。
本当に大好きで事あるごとに飲んでいました。ファンキーだなーと思っていました。呼吸器系の病気になって、酸素吸入器を持ち歩くようになって、炭酸は控えろと言われるのにこっそり飲んでいました。
ある日、じいちゃんと二人でお留守番していると、今にじいちゃんがやってきて、小銭を渡してきました。150円。ニヤリと笑うと、
「そいで、ファンタグレープば買うて来てくれんね。バス停の自動販売機にあるけんが。お釣りはお前にやる。」
ちょうどあの頃缶ジュースが値上がりして一つ120円に上がった頃だったので、30円で買収されました。それから何度かそういうことがありました。お医者さんに止められても飲みたいと言っていました。飲むとニヤリと笑うのです。美味しかったんだと思います。
じいちゃんのお葬式の日。祭壇にはたくさんのファンタグレープが並んでいました。ファンタグレープ好きは一族はもちろん、他へも知れ渡っていたよう。よく考えたら近くの商店のおばちゃんも知っていたっけ。ちなみに、死に水もファンタグレープでした。その時は悲しかったけれど、後でその話を聞いて笑いました。じいちゃんのことなので、たぶん美味しくてニヤリと笑っていたことでしょう。
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