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夏の終わりのヴェネツィア
9 月1日、ヴェネツィアで映画祭が始まった。「ライフ・イズ・ビューティフル」のロベルト・ベニーニが栄誉金獅子賞を受けてスピーチするのを、テレビのニュースで見ている。
昨日は同じヴェネツィアで、開催中の建築ビエンナーレの授賞式が行われた。アートと建築と、同じ会場で各年で開催される国際展ビエンナーレは、通常ならば開幕時に各賞が発表されるが、今年は開幕した5月にはまだセミ・ロックダウンといった状況で、審査員の来伊もままならなければ、そもそもまだ準備ができていない館もあった。そのため、審査及び賞の発表が、期間途中のこの時期に設定されたのだった。
そんなヴェネツィアのニュースを、ローマで画面越しに見ている自分が、なんだか不思議な感じがする。もどかしく、たまらなくなつかしい。
映画祭の会場となっているリド島は、この時期とりわけ美しい。照りつける太陽はまだまだ容赦ないものの、秋を感じさせる澄んだ空気は、海と空をどこまでも青く見せ、なによりさわやかで心地よい。実際に映画祭が始まってしまうと、忙しくてそんな余裕のない日もあるけれど、少し時間が空いたら、海を眺めながらぼんやりカフェを飲んだり、砂浜を歩いたり。朝9時からの上映に間に合うようにヴァポレット(水上バス)に乗って、リド島の停留所から、ゆるゆるっとカーブした運河沿いの道を歩いて会場に向かう、なんてことない時間が好きだった。
そんななつかしいヴェネツィアだけではない。今週のヴェネツィアは、なにしろ盛りだくさんだった。なんと、イタリアのファッション界を代表するブランドの一つ、ドルチェ&ガッバーナがヴェネツィアを舞台に、この8月末の3日間にわたり、2つのショウを含むイベントを開催、ただでさえ豪華な演出に、華やかな招待客らが文字通り花を添えて、夢の世界を繰り広げていたのだった。
ドルチェ&ガッバーナの作品の魅力は、ゴリゴリなまでの土着感にある。特に、デザイナーの1人、ドメニコ・ドルチェ氏の出身地「シチリア」のテイストは、彼らのブランド・イメージそのものを作りあげている。
と同時に、シチリアに限らず、伝統的な手仕事にも強い関心を寄せ、積極的に取り入れるのを得意とする。
ヴェネツィアの、サン・マルコ広場近くのドルチェ&ガッバーナの店舗は、歴史的な建物を改装してできているのだが、ムラーノ島のガラスや、ヴェネツィアのテキスタイルなど、地元の手仕事による材料をふんだんに使った、ヴェネツィアならではの内装になっている。
そのドルチェ&ガッバーナがヴェネツィアで、ファッションショーを開いたのだから、すごい。サン・マルコ広場から湾の方に抜ける小広場、ピンク色の石とレースのような大理石の装飾アーチが美しいパラッツォ・ドゥカーレと、ルネサンス時代に建てられた図書館の間に大きくステージを設置し、ヴェネツィアを丸ごと借景にしてのショウは、決してお金だけではない、地元の人や仕事を大いに巻き込んでのイベントだったからこそ、だろう。手織りビロードのべヴィラックア社、モザイク・ガラスのオルソーニ社など、ショウで見せる衣装に実際に使われているヴェネツィアの手仕事もあれば、衣装制作のニコラオ・アトリエ、鏡のバルビーニ社など、ざっと見ただけでも複数の、ヴェネツィアが誇る手仕事たちが関わっている。
8月30日、昼間はいい青空に恵まれたヴェネツィアだったが、ショウが予定されていた時間の間際の午後8時ごろになると、にわかに雲が広がり雨がぱらつき始めた。会場は完全な屋外、どうなることかと心配されたものの、開始までにはやみ、無事にスタートできたらしい。日が暮れゆく時間のヴェネツィアは一際美しい。そのマジックアワーも当然、演出の一つにカウントしていたことだろう。だがまさか、パラッツォ・ドゥカーレに大きな虹がかかるところまでは、誰も想像もしていなかったのではないか。
(こちらの写真はヴェネツィア市評議員Simone Venturini氏のFBより拝借)
ゴージャスでフローラルで、セクシーで楽しいショウについては、ドルチェ&ガッバーナの公式インスタに、たくさん動画が上がっているのでご参考まで。こちらはロングバージョンだが、ポイントごとのショートバージョンもそれぞれすてきなので、ご興味のある方はぜひ。
https://www.instagram.com/p/CTNNR1gKOYq/
モザイクガラス工房オルソーニ登場場面
https://www.instagram.com/p/CTIgyFcAdEM/
翌日。ヴェネツィア共和国時代の元造船所で、ビエンナーレの会場にもなっているアルセナーレで、メンズコレクションのショウが開催された。ところがこの日は、突然の雹に見舞われた。運河の上に設置された細長いステージの、一寸先も見えなくなるほどの激しい雹。
・・・なんて美しい。インスタの写真と、映像を見て目を見張った。予想外の悪天候さえも、まるで最初から計算され尽くした舞台装置のよう。キラキラの、雹そのものを纏ったかのようなカラフルなスーツ。目の前が霞むほどの雹の中でなお、鮮やかに翻るヴェネツィア・モチーフのマント。その美しさにただただ、息を飲むばかりだった。
と、そんな勝手なことを言って、モデルさんたちにしたらとんだ災難だろう。彼らが風邪をひいたりすることなく、無事に帰路に着いたことを願うばかりだ。
https://www.instagram.com/p/CTSj74pD7-P/
ビロード工房ベヴィラックアの生地
https://www.instagram.com/p/CTP-KwnDqfO/
次々と世界中のスターが訪れる、映画祭の期間はヴェネツィアの最も華やかなとき。来週いっぱい、毎日ニュースでヴェネツィアの様子を見せられては、ため息をつく日々になりそうだ。
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Fumie M. 09.01.2021