「ポルトガル、夏の終わり」
完璧な人など、一人もいない。たとえ国際的に活躍する大女優であろうとも。夫婦、親子、義理の兄弟に友人、恋人。家族、といっても血縁だけによらない、過去や現在の立場により構成された少し広い意味の家族が、休暇のため、ポルトガルの世界遺産シントラという町の郊外の家に集合する。一人一人、その家族という関係の中で皆、お互いに不満を抱えている。人は、それがたとえ家族であれ、夫や妻、親や娘、息子であっても、決して自分の思う通りにはならない。
シントラの石造りの古い町並みに、ポルトガルのアズレージョ、色鮮やかなタイルが生を与える。滞在する家へ向かう深い緑の森、赤い車体のコロッとしたトラムでむあう、ビーチの青い海と空。しっとりと情緒あふれる風景の中でしかし、そこにいる人々はみなバラバラで、ギシギシと不協和音を奏でている。
会話が成り立たない家族。ようやく話したと思えば、話すだけ距離が開いていく。生まれたかと思うと消えてゆく、愛の幻。
「不」ばかりが転がったストーリーの中へ、ふと、優しいピアノの音色が入り込んでくる。はかなく悲しみを伴った音が、この物語をフィナーレへと導く。断続的に降り続いた雨がいつのまにか止んでいる。いきなり虹が出る訳でもなければ、太陽が顔をだし青空が広がる訳でもない。だが、何かが変わる、そんな予感を含んでいる。
映像と音と、人とひとつひとつの言葉が見事なハーモニーが美しい。上質な小説をひとつ読み終えたような、交響曲をひとつ聴き終えたような、そんな気がした。
ポルトガル、夏の終わり
Frankie
監督・脚本 アイラ・サックス
出演 イザベル・ユペール ほか
フランス、ポルトガル、100mim, 2019年
https://gaga.ne.jp/portugal/
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Fumie M. 09.06.2020