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「サブリナとコリーナ」と「彼女たちの部屋」。

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 Black lives matter - 黒人であるというだけで、同じ市民でありながら明らかに白人に比べ冷遇されるどころか、警察により殺されてしまうことすらあるというアメリカで、人種によらず多くの市民が、声をあげたのは記憶に新しい。日本にいると、白人対黒人という構図しか見えなくなりがちだけれど、世界の大国の1つであり、移民国家であるアメリカには、その二項対立のみならずさまざまな民族や人種が暮らしている。

 中でも、中南米を起源とするヒスパニック系は、選挙などの際は第3の勢力として注目されることもあるけれど、そういえば少なくとも私の知る限り、表舞台に立つことはほとんどなかったのではないかと思う。
 コロラド州デンバー出身、カリ・ファハルド・アンスタインによる「サブリナとコリーナ」は、ヒスパニック系コミュニティに生まれ育ったアメリカ人の女性たちの、さまざまな物語の短編集。男尊女卑を基礎とした古い伝統の残る、経済的にも豊かとはいえない地域の女性たちはしばしば、まさにその由来のために「エキゾチック」な美しさを備えており、その美のためにさらに、男たちに利用され、翻弄され、その多くの場合において暴力の対象となるのだった。

 「彼女たちの部屋」では、(元)辣腕弁護士ソレーヌの目を通じて、パリにある「女性会館」に暮らす、外国人移民や経済的困難者など、さまざま理由により生活に支障を抱える女性たちの生活や半生が綴られる。重く、辛いストーリーの連続だが、シンプルで短い文章、そう、まさにSNSの投稿のような語り口のために、なにしろ読みやすいのが特徴と言える。とっつきやすく、身近に感じやすいのは、映画監督であり脚本家、女優でもある著者、レティシア・コロンバニならではなのだろう。
 ソレーヌは、必要のある女性たちの代わりに手紙を書く「代書人」として「会館」に通う。「代書人」という言葉は、何かファンタジーの世界のような、おとぎ話の中の登場人物のような職業を思わせる。ところが、代筆するのは夢のような物語とは限らない。
 会館に暮らし、出入りする女性たち、ソレーヌ自身、そこに100年前のジャンヌ・ダルクのような女性のストーリーが交錯する。簡潔な語り口に騙されつつ、やがて導き出される見事な全体構成に脱帽した。

 この時期に、この2冊に出会えたことに嬉しく思う。多くの女性の皆さんに、そしてさらに多くの男性の皆さんに読んでいただけたらいいなあ・・・。

サブリナとコリーナ
カリ・ファハルド・アンスタイン
小竹由美子 訳
新潮社
https://www.shinchosha.co.jp/book/590167/

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彼女たちの部屋
レティシア・コロンバニ
齋藤可津子 訳
早川書房
https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000014541/

 コロンバニは先日、ヨーロッパ文芸フェスティバルのオンライン対談に登壇した。アーカイブが公開されているので、ご興味のある方はぜひ。
https://www.youtube.com/watch?v=DprHsgZtWuM
(・・・フランス語ですが・・・)

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Fumie M. 11.28.2020


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