退廃的な雰囲気が漂う『エヴァの匂い』
あらすじ「自作小説が映画化され富と名声と婚約者で女優のフランチェスカ(ヴィルナ・リージ)を手に入れた元炭坑夫でウェールズ出身のタイヴィアン(スタンリー・ベイカー)は二年前に映画祭に出席するためヴェネチアにやってきました。ある大雨の日、タイヴィアンが新作執筆の為に借りて滞在しているベネツィアの潟にあるトルチェッロの借家に帰宅すると、女連れの男が雨宿りに侵入していました。男がタイヴァンに釈明中、勝手に湯を張った浴槽で濡れた身体を浸しカバンに持っていたレコード(ビリー・ホリディの「Willow Weep For ME 」)を流し続ける傍若無人なオリヴィエ夫人ことローマ在住のエヴァ(ジャンヌ・モロー)に興味をもつのでした・・・」
物語はタイヴィアンの回想で進んでいきます。若く細く手足が長く顔の小さい、タイヴァンに惚れている女優の婚約者フランチェスカと比べて、タイヴィアンの小説や肩書きに興味がなく、傍若無人で連れて歩く男がいつも違うローマで悪名高い有閑マダム然とした熟女エヴァ。エヴァのそれなりに歳を重ねたと見える、落ち窪んで陰った目と肉の重みを感じる身体つき。熟した禁断の果実のようなジャンヌ・モローの色香がエヴァの魔性に説得力をもたせています。
エヴァを尾行し付きまとうタイヴィアンと話すうちに、エヴァは、自分が孤児で性的暴行を受けた過去と一番好きなものはお金で嫌いなものは男だと少しずつ打ち明けたのでした。
たくさん贈り物をくれたお礼に、エヴァのアパートに招かれたタイヴィアンは気持ちを告白し、2人は一夜を共にします。
「君は美しい」
「男のお世辞ね」
「僕は心からそう思う」
「本当に綺麗?」
「意地悪で、残酷で、不道徳で、破滅的だ」
「私は醜い女よ」
「僕のものにして、幸せにさせたい。思い上がった男と思うだろうが本心だ」
「幸せにしてみせて、でも恋はしないで」
☆タイヴィアンがやっていることは最初から浮気に見える。
この『エヴァの匂い』を観た感じ、タイヴィアンも悪い男じゃないのか?という感想をもちました。肩書きもお金もあるタイヴィアンのことですから自分の虜にならない女はいなかったのかもしれません。自分の借家に迷い込んだエヴァの夫婦ではない関係を垣間見て、最初は自分も遊びのつもりだったのかもしれません。婚約者に隠れて浮気相手を1人作っておきたかったのかもしれないし、気が変わってエヴァの不遇な過去を聞いて心から思うところがありエヴァを幸せにさせたいと思ったのかもしれません。
タイヴィアンがそこまでエヴァにのめり込んでいく理由が私には明確にはわからないのですが、エヴァと出会ったその夜から、関係をもつことにのめり込んでいってるのはタイヴィアンの方です。エヴァにとっては、一度寝たら馴れ馴れしくなる男といったところでしょうか。
☆エヴァが一番好きなものは最初からお金。
エヴァは出会った時から一貫してタイヴィアンの心や肩書きに興味はなく、贈り物をくれたりデート代を支払ってくれたりお金をくれる男と関係をもっているだけなのです。
☆このタイヴィアンとエヴァの違いは、歪な関係となり、意地悪で、残酷で、不道徳で、破滅的な道を進むことになります。・・・フランチェスカに対しても。
エピローグとプロローグにアダムとイブの彫刻が映る意図的なシーンや、タイヴィアンの暖炉の部屋の長いワンシーンや、パリの街並みを白いコートを着て1人歩くエヴァのワンショットなど、モノクロームでありながら背景と人物が美しく絵に収まっていて、エヴァが浮名を流すベネツィアの魅力が詰まった美しい作品です。
この映画に繰り返し流れるビリーホリディの「Willow Weep For ME /柳よ泣いておくれ」を聞いてみてください。たぶんテーマソングです。(ビリーホリディの画像をクリックするとYouTubeにリンクしてあります。)
エヴァのムードとフェロモン(匂い)を感じる曲。
『エヴァの匂い』原題『EVA』は、1962年(日本公開1963年)のイタリア・フランス合作映画で、イギリス出身の小説家ジェームズ・ハドリー・チェイスの作品「悪女イブ」〈小説原題EVA〉(発表1945年/日本で初版1963年東京創元社創元推理文庫)が原作になっているそうです。今回紹介した『エヴァの匂い』(62)以外にイザベル・ユペール主演の「エヴァ」(2018)とこれまでに2度映画化されています。私は原作を読んだことないですが・・・。
映画を見た後のエヴァの残り香のような余韻を味わいつつ、容赦なくタイヴィアンに辛辣な言葉を浴びせ続けるエヴァにジャンヌ・モローがハマり役だなと思ったことは間違い有りません。
おすすめです。
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