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「恋愛論」 スタンダール

大岡昇平 訳  新潮文庫

読みかけの棚から
読みかけポイント:新倉俊一「ヨーロッパ中世人の世界」から、関連する章を読み、その近所の章も少しだけ。

岩波文庫で新訳で出たそう(2015年)。岩波は二分冊。

新倉俊一「ヨーロッパ中世人の世界」から

ファブリオ、コント、ノヴェレ、ロマン
第3部の語り物系部門、最初の章は「ファブリオ、コント、ノヴェレ」。これに対する長編であるロマンも交えて具体的テーマの一つを見比べていく。そのテーマは「心臓を食べさせる話」。浮気している妻に、殺した相手の心臓を取り出して調理し食べさせるが…

ロマンの反対がファブリオ、コントであるが、両者のいいところを入れて成立しようとしたのがノヴェレ。
そのノヴェレの元であるイタリアのボッカッチョ「デカメロン」にもこの心臓の話が出てきているが、一方。スタンダールは「恋愛論」で、歌が物語の中心近くに登場することなどを含む、半ばロマンの作品としてこの話を導入している。
(2020 08/22)

恋人の心臓を食べさせた夫の話、の読み比べ

というわけで、「ヨーロッパ中世人の世界」から引き継いで、「恋愛論」と「デカメロン」を読んでみよう。

まず、スタンダールの「恋愛論」からの「ヨーロッパ中世人の世界」の直接引用は2箇所(他でも、「中世でもジュリヤン・ソレルのような若者はいたのである」と、新倉氏のお好みの作家らしいが)。宮廷の恋愛法廷と司祭アンドレ(「付録」)と、表題の心臓を食べさせた夫の話(第二巻第52章)。

早速その第52章読んでみると、これも10ページ未満でそこまで長くはないが、少なくとも「ヨーロッパ中世人の世界」で紹介されていたほぼ1ページの作品と比較すれば長い。これは中世に流布してたこのプロヴァンスの話のヴァリエーションの最も長いものを、スタンダールがほとんど手を加えずに翻訳したもの。このスタンダール版では、長くなったのが前半、夫が妻の詩人に対する愛を知るまでのところ。一番特徴的なのは、一回中傷者によって妻の不倫を知ってから、妻の妹夫婦の協力で一芝居うち夫を欺く場面(「トリスタン」にもこうした場面があるという)。

スタンダールは、この前の51章でプロヴァンスの恋愛概観をしている。この2つの章は対で書かれたのだろう(最初の構想の版にはこの2つの章はなかったというし)。その51章から。

 十字軍のトゥールーズ占領がプロヴァンス王国に与えた結果は、ちょうどこのとおりだった。恋と優美と陽気のかわりに、北方の蛮人と聖ドミニックが来た。私は当時その初期の熱狂的な異端糾問の、身の毛もよだつような話でこのページを汚したくない。野蛮人は我々の祖先のほうだった。彼らは殺し奪った。持ち去ることのできないものは、ただ破壊する快楽のために破壊した。
(p194)


スタンダールはグルノーブルの生まれなはずだから、プロヴァンスではないけど、北フランスでもないのだけれど、どうなのかな。とにかく、南仏の文化の探究の序にこのスタンダールの言葉を置いて考えて(できれば実際に行き)たい。

と、次はボッカッチョ「デカメロン」版(講談社文芸文庫版)。えっと、第4日目…え、「省略」って何…
これでは、完訳の平川訳も購入せざるを得ない…3巻本だから高いよ…定評はある訳だけど、買ったら、両者とも全部読むの??
(2020 08/30)

第53章アラビア


前記プロヴァンスものの2章に引き続くのはアラビアの章。といっても、スタンダールが着目するのは、イスラーム勃興前のアラビア。ムハンマドは「清教徒」で、各地で恋愛を禁じて回ったとスタンダールは言う。だけど、「情熱恋愛」の伝統あるアラビアでは一番回教度?が少ないとも。まあ、ワッハーブ派とか起こる前のアラビアは、意外にこんな緩い雰囲気だったのかな、とも思う。
(実際のイスラーム社会史、女性史がどうなのかはまた別の歴史的研究課題)

イスラームの聖地カーバ神殿。スタンダールがイギリスでカーバ神殿の模型を見た、というのも興味深い。イスラーム前のアラビアでは、カーバ神殿の周りに屋根付き回廊があって、そこでは男女とかいろいろが集って語り合っているとか。今の神殿とは全く違う様相。
(2020 08/31)

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