「痕跡」 エドゥアール・グリッサン
中村隆之 訳 水声社
作者はマルティニク島出身でシャモワゾーの少し先輩。やはりというかフォークナーから一番影響を受けている、という。
1章全体段落替えなしの延々続く語り、という特殊な書き方。例えば、こんな感じ(ここまで読んだわけではない)。
これは新たな段落の始まりの部分なのだが、前の段落の最後と繋がっているということもある。とにかく書き方が独特…
(2017 05/22)
アフリカからマルティニックへ
エドゥアール・グリッサン「痕跡」昨日から読み始め…だが、いきなり濃度が濃くて寝不足頭ではついてはいけない。冒頭のこの辺りはどうやら黒人奴隷貿易船のことを語っているようなのだが…
一人の人間は孤立していなくて、各々の人間はサトウキビの繊維で編んだ縄のように「雑に」結びついていた、ともある。ここではマルティニックの人々共通の深い歴史を掘り起こしている。序のヤム芋の苗の文章の実践。
(2019 11/02)
われわれ
語り手が語る〈われわれ〉とは誰か。例えば、こんな感じで物語は進んでいく。
この小説の大きなテーマの一つは、彼らの起源でもある大西洋奴隷貿易。この後出てくる「寝室魚」のお話もその比喩の一つらしい。
(2019 11/13)
われわれとあんた
第2話目? 中心人物?マリ・スラの父母の話が第1話目。第2話目は祖父母の時代、主に森で拾ってきた娘(のちのマリ・スラの母)について。
この小説、前も書いたけど、「われわれ」という呼びかけ(というかなんというか)が独特で、それも話とか場面によって微妙にずらされていっているような気もするのだが、この娘が家出して森を彷徨い始めるところ、p74くらいから、それが「あんた」に変わる。
ここで呼びかけられているのは娘であるとは思うが、そうなると、娘は黒人奴隷の子孫という大括りの「われわれ」とは違うものなのか。そうしていくうちに出会うのが逃亡奴隷の子孫らしき人物…
この辺りの自意識の持ち方は、現地の黒人系の人でなければわからないのだろう。
とにかく、詩的難解な語り口に、立場が異なる話が重なって、立体的に見えてきた。
(2019 11/18)
「われわれ」再考
(そもそもちゃんと考えているのかは別にして(笑))
「痕跡」の「信じれば救われる話」を今日読み切り。ここでまた「われわれ」の語りの新側面が出てくる。
ここでは「われわれ」についてだけ見てみると、この話ではマリ・スラの曽祖父・母のことが出てきているのだから…孫世代?マリ・スラの1世代前くらいの何人かが設定されているのかな。
でも、時と場によってわれわれという語り手、聞き手が変化しているのがこの小説の特徴だとすれば、そのように「われわれ」の位置を固定するのは得策ではないかも。でもなんとなく、奴隷船の時代から現代までの人物の総括、それら全体の子孫が話し合っているような気がしている。
もういっちょ。
やっぱりそうか、登場人物には見えていない「われわれ」。見えてはいないのだが、無意識に話しかけられている、いつか誕生する未来の「われわれ」。
こうした重箱の隅つつくだけで精一杯な感じなんだけど…まだ半分以上残っているのだけど、今月中いけますか?
(2019 11/21)
独房と名前がわからぬ先祖たち
とりあえず、今のところ(25日午前10時)、第2部「時の中心」の「燃えた土地の記憶」まで読んだ。
「独房」とは奴隷船から連れてきた黒人奴隷のうち、反抗的な者を入れたもの。
夜に第2部読了。ここは高祖父以上前の名が伝えられていない先祖達の話なのか。凶暴な動物譚を含む。
(2019 11/25)
われわれの位相
「痕跡」第3部でやっとマリ・スラが出てくるけど、同時に作者そのものっぽい人物も出てくる。島の高等教育機関に学んでいるらしいこの語り手はここでも「われわれ」と語る。この「われわれ」はなんか具体的な学校の友人関係とかを思い起こしているというよりは、レトリカルな拡大した意味で作者個人を「われわれ」と言っている…のかな、と思ったりして。
(2019 11/26)
(2019 11/27)
読書の痕跡
グリッサン「痕跡」。11/30になったばかりの頃読み終わり。
われわれという語りについて、結構書いて来た(その他がよくわからなかったということもあるが)けど、これらの文章などそのまとめにどうかな。語りを超えて自己論にまで踏み込んでいるような気もするが…
p226の文について補足すれば、「それ」という箇所に「スラ」とふりがながある。フランス語でそういうのかもしれないが、マリ・スラという名前がこの自己論と関係がない、ということはないだろう。
…かき集めないとすぐ空虚になって崩壊してしまう?
ま、とにかく、さっぱり人物関係とか筋とかわからず、1日に10ページくらい進めばよい方だ、というくらいに難しかった。使っている言葉自体は平易なんだけどね。それは作者グリッサンが一番影響を受けているフォークナーにも通じるもの。ということは、再読すれば全く違う見通しが見えてくるのかな。あるいは他の作品と関連するサーガ…
(2019 11/30)