「黄色い雨」 フリオ・リャマサーレス
木村榮一 訳 ソニー・マガジンズ
リャマサーレスは1955年スペイン北部レオンの生まれ。
訳者木村氏がこの作家を知ったきっかけは、セルバンテスの町の本屋のおじさんとの会話。そこからリャマサーレス本人に会うという後書きがこれまた沁みる。
「黄色い雨」冒頭少し。こちらは1970年代くらいに廃村に一人隠れ住む男の話…らしい。
(2016 11/05)
沈黙の音
第2章に入り、前章の時点から遡ってこの村に語り手とその妻サビーナだけが残った雪積もった冬の夜の回想。沈黙の「音」。語り手はサビーナを探しに外へ出る。サビーナは犬と一緒に村を徘徊していた…
(2016 11/06)
黄色い雨降るアイニェーリェ村
廃村アイニェーリェ村に一人(犬は?)残る語り手。そもそも何故村人は皆去り、彼ら夫妻だけが何故残り、そして何故妻のサビーナが首吊りしたのか、全くわからないまま語りは進行する。そもそも語り手自身は生きているのか、それすらもわからない。記憶と空想と現実が煙の中にともに立ち上ってくる、そんな小説世界。
それも彼自身の記憶だけでなく、捨てられた村に残る様々な抑圧された記憶も襲いかかってくる。今さしかかっている毒蛇のところ(p77~)ように。
さっきのp49の文の直前にもあった小説全体の名前「黄色い雨」がここでも出てくる。
(2016 11/07)
亡霊と犬の兄弟と死を伝える石
いったいこう語る語り手は死んでいるのか、それとも生きているのか。母やサビーナなどの亡霊と仲間入りをしているのか。
この登場人物が異様に少ない小説世界の中で、語り手もそして読者も、唯一感情移入できる雌犬。彼女?にも実は暗い過去はあり、6匹産まれた中で彼女だけ取り出してあとの5匹は川に沈めて殺した、という。
あとは死者の話に関する村の言い伝え。誰かが死んだことを聞いた最後の村人は、その話を何らかの石に話さなくては死がその人を取り巻くという。いつかその石を旅人が拾うかもしれないから…だって。
道端の見知らぬ石は無闇にさわらないようにしよう。
(2016 11/08)
アイニェーリェ村は存在する、あるいは…
存在していた、そうな。廃村になって。登場人物は作家の創造だが、実在する可能性もある…と序にあった。
ということで、「黄色い雨」を読み終えた。語り手は誰か、作者の考える、ここで語っているのは何者なのか。
と語っているのは誰で、誰かとは誰か。そして語り手は生きているのか。全てものが黄色く見える世界。最後は最初の章に立ち戻って終わる。
解説にあるリャマサーレス自身の言葉から気になる箇所をピックアップ。
悪徳というところに自分としてはかなり惹かれる。書くということそのものを深く考えているのだろうなと…その言葉の後で書くことの周囲にあるさまざまなことが、書くことの妨げになっている、とも言っているが…
リャマサーレスは最初詩人として、そして小説やエッセイ、旅行記、映画シナリオまで。本人自身があまり内向的でもないと言っているように、案外にいろいろな作風があるようだ。
(2016 11/09)