欲に負ける
26歳の誕生日に人生で初めてピアスを開けた。
26と言う何とも微妙な数字からもわかる通り、何かの記念と言う訳でも、ましてや失恋した訳でもない。ピアスを開けようと思ったときたまたま誕生日が近かったので、自分へのプレゼントと言う態を取ってみただけだ。自分の誕生日にわざわざ病院へ行ってお金を払って怪我をして来るなんて、とんでもなく酔狂なことをしたと思う。
わたしは真紅色が大好きなのだけれど、どのくらい好きかと訊かれたら、年末生まれだから誕生石はターコイズやラピスラズリと言った青系の鉱物なのだけれど、「あと何日かずれていたらガーネットだったのに!」と地団駄を踏むくらい。ずっとガーネットのひと粒ピアスに憧れを抱いていた。
けれど、ピアスを開けると言うところにまで気持ちを持っていけなくて、代わりにイヤリングを買ってみたことがある。採血のときや予防接種のとき、針がぶっ刺さっているところから薬品が自分の体内に入って行くのや、血液が自分の中から出て行くのをまじまじと見ているタイプである、痛いのは嫌だと言う理由で躊躇っているのではなかった。髪飾りやネックレス、必需品とも言える腕時計でさえも、買ったはいいけど気付いたらタンスの肥やしになっていた──なんてものが、ひとつふたつみっつよっつ──ああ、数えきれない。ピアスを開けたはいいけれど気付いたら穴が塞がっていた──なんてことになるかもしれないと思うと、どうにも勿体ない気持ちのほうが勝ってしまっていたのだ。
イヤリングはと言うと、ガーネットではなくルビーのを買った。「おまえのガーネットに対する気持ちはそんなもんかい!」とハリセンではたかれてしまいそう。ごめんごめん。ガーネットはそんなに鮮やかな赤と言う訳ではなくて、赤茶や赤黒と言ったほうが正しい。日にあてるとそれはそれはわたし好みの美しい真紅色に見えるのだけれど、薄暗い場所でもその色を楽しみたいときにはあえてルビーを選んだりもする。何より、イヤリングユーザーの万年の悩みのタネでもある金具。野暮ったく見えてしょうがない。気になる。ものすごく気になる。この金具のいちばん気に食わないのは、自分の大好きな色を身に付けているはずなのに逆に気分が下がってしまうところである。
イヤリングが気に食わなかったからピアスを開けたのかと言ったら別段そう言う訳でもなくて、いちばんの直接的な要因は欲に負けたことにある。前述の通り「どうせタンスの肥やしになるし」と流しに流していたのだけれど、欲は定期的に押し寄せて来る訳で。それにとうとう折れてしまった、と言う具合である。衝動的に開けた訳じゃないからいいか。病院を予約するのにも料金やら口コミやらいろいろ比べて回ったし。耳たぶに痕は残っちゃうけれどいつも髪を下ろしてるし。いっか。