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【5分で理解シリーズ】収益認識基準のポイントをわかりやすく解説します


収益認識基準の概要

収益認識基準は、文字通り収益認識の基準を定めた規程です。収益認識とは売上を計上することであり、収益認識の基準とは会社が顧客に販売した製品について売上をいつ、いくらで計上すればよいのか、ということを定めたものです。​​​​​​​本記事内では基準の訳では収益、解説文では売上という文言を使用しますが、この2つは同じ意味と捉えていただいてかまいません。

収益認識の基本的な原則として、会計基準では下記のように記載されています。
"An entity recognizes revenue to depict the transfer of promised goods or services to customers in an amount that reflects the consideration to which the entity expects to be entitled in exchange for those goods or services"

"企業は約束した財又はサービスの顧客への移転を当該財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込む対価の額で描写するように、収益を認識する"

日本語訳でもあまりにも専門的な表現が使用されており分かりづらいと思いますので、実務上問題となるポイントに絞って解説いたします。

履行義務と資産に対する支配

売上をいくらで計上するか、という点が問題になることはほとんどありません。価格は事前に決まっており、意図的な操作が入る余地が少ないためです。もちろん事後的な価格調整はあり得ますが、本解説では省きます。

もっとも重要なポイントは「いつ」売上を計上するか、という点です。米国会計基準には下記の記述があります。

"The timing of when revenue is recognized by an entity is when, or as, an entity satisfies 

"企業は、約束した財又はサービス(資産)に対する支配を顧客に移転することにより履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する"

「履行義務」とは顧客との契約において資産を顧客に移転する約束をいいます。また、「資産に対する支配」とは当該資産の使用を指図し、当該資産からの便益のほとんどすべてを享受する能力をいいます。「履行義務」は一般的な契約条件としてイメージしやすいと思いますが、「資産に対する支配」はなかなかイメージし辛いと思います。「資産に対する支配」が顧客に移転することを簡単に表現しますと、製品が会社のものでなく顧客のものになること、です。具体的には下記の5点を考慮して判断します。これら全てを満たしていなければならないわけではなく、あくまでも判断する際の目安となる事項です。

  1. 企業が顧客に提供した資産に関する対価を収受する現在の権利を有していること

  2. 顧客が資産に対する法的所有権を有していること

  3. 企業が資産の物理的占有を移転したこと

  4. 顧客が資産の所有に伴う重大なリスクを負い、経済価値を享受していること

  5. 顧客が資産を検収したこと

2番、3番、5番あたりがわかりやすいでしょうか。製品が顧客のもとに届き、引き渡しが行われ、顧客が検収することによって製品の所有権が会社から顧客に移ります。この時点で製品は顧客のものとなり、「資産に対する支配」が顧客に移転し、顧客との約束である「履行義務」が果たされたことになります。

よって、会計基準の記述は次のように言い替えることができます。

会社は製品を顧客に引き渡したときに売上を計上する

出荷基準

通常は製品を出荷したときに売上を計上しており、製品を顧客に引き渡したときではない、と考えたかもしれません。確かにそのとおりで、一般的にははShip&Billモデルを採用しており、出荷を行い請求書を発行した時点で売上を計上しています。

出荷のタイミングと製品が顧客に引き渡されたタイミングは明らかに異なります。製品を顧客に引き渡したときに売上を計上するとしておきながら、なぜ出荷のタイミングで売上を計上することができるのでしょうか?

出荷のタイミングで売上を計上することは一般的に「出荷基準」と呼ばれます。この他、「検収基準」や「引渡し基準」といった名称を耳にしたことがあるかもしれません。これらは売上を計上するタイミングを示したものです。「基準」と呼ばれていますが、企業はこれらの「基準」を自由に選択できるというわけではないということに注意が必要です。例えば会社はこれらの基準の中から「出荷基準」を選択しているわけではありません。前章で述べたように、売上を計上できるのは製品を顧客に引き渡したとき、が原則です。

「出荷基準」によって出荷のタイミングで売上を計上しているのは、実務上の簡便性のためです。製品が出荷されてから顧客に引き渡されるまでの期間が通常のリードタイムの期間であってどちらのタイミングで売上を計上してもほとんど差が無い場合、出荷のタイミングで売上を計上しても、引き渡しのタイミングで売上を計上しても、大きな影響は無いと考えられています。

出荷基準の誤解

出荷のタイミングで売上を計上することができるのはあくまでも実務上の簡便性のためです。出荷さえすれば売上を計上できるわけではありません。先ほど述べたように、出荷基準が認められるのは出荷されてから顧客に引き渡されるまでの期間が通常のリードタイムの期間である場合です。例えば、以下のような事例では「出荷基準」で売上を計上することはできません。なぜなら出荷のタイミングと顧客に引き渡されるタイミングに乖離があるためです。

  1. 月末にとりあえず出荷して社外の倉庫に一時的に保管する

  2. トラブルにより配送が遅れ、顧客への引渡が通常のリードタイムよりも長くかかってしまった

当然のことながら、出荷をしていない状況で売上を計上することはできません。一般的な取引契約では引渡時に所有権が移転するとされているので、会社が製品を保有しておきながらその製品に対する支配が顧客に移転しているという状況はかなり限定的です。例えば会社の倉庫のリソースが逼迫しており、出荷が遅れることについて会社と顧客との間で合意がなされている状況だとします。この場合に、先に請求書を発行して売上を計上することはできません。両者が合意しているのは出荷の遅延の状況であって、所有権の移転といった支配の移転に関する合意ではないからです。仮に所有権の移転に関する合意があったとしても、合意だけでは実質的に支配が移転したとみなすことはできません。所有権の移転に関する契約を別途締結する必要があるでしょう。これは会社の定める一般的な契約条件とは異なるため、許容されないと考えられます。

売上を計上するためには出荷が必要です。ただし、出荷されているからといって必ず売上を計上できるとは限りません。

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