【肩の投球障害】病態鑑別で見過ごしてはならない5つの疾患と検査法
肩の投球障害に対して評価・治療するにあたって、まずは肩に構造的な破綻や化学的反応(炎症)が生じていないかどうかを鑑別します。
もし構造の破綻や炎症があれば、無闇な検査や介入によって痛み・障害を悪化させかねません。安全な評価・治療のためにも病態鑑別の知識とスキルをおさえておきましょう。
肩の病態では「腱板に関するもの」と「関節唇および関節包に関するもの」に分けてみると考えやすくなります。ここでは肩の投球障害でとくに注意すべき5つの疾患をご紹介します。
【腱板に関するもの】
腱板損傷
「回旋筋腱板(腱板)」は肩甲骨と上腕骨頭をつなぐ4つの筋−棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋−の腱の複合体のこと。肩関節の運動に伴って上腕骨頭を肩甲骨関節窩にひきつける重要な働きをしています。
腱板損傷(腱板断裂)は、腱が上腕骨頭からはがれたり、破れたりする損傷。投球が原因でおきる腱板損傷では、くり返される腕をふりあげる動作によって腱板にストレスが加わり損傷に至ります。とくに“腱板の関節包側”の部分断裂が多いとされます。
痛みで腕が挙げられない。夜、痛みで目が覚める。腕を下ろす時にも痛みが走る。痛くなったほうの肩を下にして寝られないなどの症状が現れます。
検出法:painful arc sign、O’Brien’s test、超音波検査(エコー)、MRI など
肩峰下インピンジメント症候群
肩関節は通常、外転運動において肩甲骨上方回旋と肩関節外旋が生じ、上腕骨頭が肩峰下アーチ(*)をスムーズに通過します。
*肩峰下アーチ:肩峰と烏口突起、またその両者をつなぐ烏口肩峰靭帯によって構成されるアーチ。
しかし何らかの理由により肩甲骨上方回旋や肩関節外旋が損なわれると、肩関節外転に伴って肩峰下アーチで腱板や肩峰下滑液包がぶつかり、炎症や組織損傷が生じます。
肩峰下インピンジメント症候群は呼称であり、その病態には腱板炎や腱板断裂、石灰性腱炎、肩峰下滑液包炎などの多彩な組織損傷が含まれます。1972年にNeer CSによって報告されました。
検出法:Neer’s impingement sign、Hawkin’s test など
インターナル・インピンジメント
投球動作の後期コッキング期で「肩関節外転・外旋位」をとる際に、後上方関節唇と腱板の関節包側が衝突。後上方関節唇損傷と腱板関節包側部分断裂の病態を生じます。
障害の発生には前下方の関節包および前下関節包靱帯の弛緩、肩甲骨の運動機能の低下、その他全身部位からの影響が考えられます。1992年にWalchら、1995年にDavidsonらによって報告。
検出法:Crank test
【関節唇や関節包に関するもの】
上方関節唇損傷(SLAP lesion)
後上方から上方・前上方にかけての関節唇の損傷をsuperior labrum anterior and posterior(SLAP)lesionと呼びます。
病態発生の機序には投球による急激な回旋ストレスや上腕二頭筋長頭腱が関与しています。
上方関節唇は上腕二頭筋長頭腱と組織的に連続。長頭腱の張力によって関節唇が関節窩から剥離される病態を生じます。投球動作時の痛みや“ひっかかり”感、不安定感などの症状が現れます。
検出法:Crank test、MRI
Bennet損傷
「関節唇後下方の骨棘形成」をBennet(ベネット)損傷と呼び、肩挙上位のレントゲン撮影で確認されます。Bennet GEが報告(1941年)。
上腕三頭筋長頭腱、関節包、関節唇、骨膜などへの刺激により発生すると考えられます。Bennet損傷に特異的な理学検査はなく、無症状である場合も少なくありません。
【プラス1】
上腕骨骨端線障害(little leager's shoulder)
成長期におこる投球障害として見過ごせないのが「上腕骨近位骨端線障害」。「リトルリーガーズショルダー」とも呼ばれます。
子どもの骨の端のほうには骨を形成する細胞が密集する「成長軟骨(骨端線)」があります。しかし骨に比べてまだ強度が弱く、投球による急激な回旋ストレスのくり返しによって損傷。
骨端線の損傷や離開が起こって痛みが表れます。放置しておくと痛むだけでなく成長障害にも繋がる可能性もあり要注意。
まとめ
投球による肩の症状を訴える患者・選手に対して、まずは患部に何が起きているのかを正確に把握する必要があります。
構造的な破綻や炎症が生じていると考えられる場合は「患部を守る」ことが第一選択。医療機関で適切な治療を受けるのが望ましいです。
選手の将来を守り、安全で確かなアプローチをするために、病態を鑑別できる知識と検査手技を磨いていきましょう!
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