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入学式用の服を買いに【さくら】
書くンジャーズ日曜日担当のふむふむです。
今週のテーマはさくら。
お花見も浮かびますが、今回は私の中で一番古いさくらの記憶について。
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自営業の我が家は年柄年中忙しく、たまの休日は朝ゆっくり寝てお昼からデパートに行くのが唯一のレジャーであった。
そんなわけで、小学校の入学式に着る洋服を買いに行くのもいつ行けるのか全く見当もつかず、ちょっと不安に感じていた。
ある平日の夕方、母に「今から出かけるから支度して」と言われ、急にデパートへ出かけることに。
恐らく仕事が早く片付き、急遽決まった予定だったんだろう。
大忙しで出かけたデパートは、どこにも寄ることなくすぐに子供服売り場へ。我が家の場合おもちゃ売り場を眺める事など許されない。既に3歳の時に新しい家を建てるから金輪際おもちゃは買わないとお風呂の中で宣言させられている。
特に期待もせず、子供服売り場に向かった。
そこには桜の木のディスプレイがあり、入学おめでとうの文字が大きく飾られていた。
ピンクや水色の明るい服が並ぶ中、母が私に選んだのはグレーのボレロ付きワンピース。
本当はかわいいピンクの洋服が良かったな。でも一重まぶたで地味な顔の私にはやっぱりグレーや紺の方がいいんだろうな。
近くにいたお店の人から試着を勧められ、少しあきらめ気分で試着した。母は「似合う似合う、これにしよう」とすぐに決定した。
やっぱりね 聞き分けの良い子でありたいと思っていた私は自分の意見を言うでもなく、グレーの服を受け入れた。
お店の人に丁寧に案内され、レジに向かうと、まるでおあつらえのスーツを扱うように洋服を箱状のケースに入れた。
笑顔で会計を終えると、お店の人は私に向かって「ちょっと待って」と呼び止めた。
どうしたのかなと思っていると、ディスプレイの桜の花をチョキンと切って手早くテープを巻き、安全ピンでとめた。
何をしているのかわからなかったのだが、お店の人は見事な手際の良さでコサージュを作ってくれたのだった。
そしてその花を手渡すと、「胸に飾るとピンク色でかわいいから入学式の時につけてもらうんだよ」と笑顔で一言添えた。
本当は私がピンクの洋服を着たかったことに気づいていたのかもしれない。
入学式の日、私はグレーの洋服を着て小学校に行った。洋服を選んだその日は違う気持ちで。地味なグレーを彩るように桜のコサージュが輝いて見えた。
入学式に咲いていたであろう桜のことは全く覚えていないが、あのお店の人に作ってもらった桜のコサージュの思い出は今も鮮明に残っている。
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