コーヒーと「なにもない」があった アジサカ駅店の一日 seed village #西鉄ありがとう
あれからもう2週間、夏の終わり、あの日、私は見知らぬ街を目指していた。
普段見過ごしてしまうはずの駅に
緑と青の世界に、それは本当にあった。
ホームに降り立った瞬間、もぎたてのきゅうりのような香りの風がやさしく顔を撫でた。
急ぐ必要もないのに、早くそこに行きたくて背中を押される気分。大人になってもはしゃいだ気持ちになるのは、まるで遠足のような思いでこの地を訪ねたから。
ホームにはCOFFEE となぜかアジのイラスト。
あじさか アジサカ アジ+坂 ?
そういえば、あかさかとあじさか 1字違いって言ってた。
オフィス街と無人駅をつなげた、たった一文字の違い。
普段は人のいない無人駅、そこに何故か集う人たち。
ある人は女子会ツアーを組んで、ある人は何かのついでで、ある人は普段誰もいない駅が昔の活気を取り戻す姿に思いを馳せて。
停車する普通電車だけでなく、通過する電車に乗る人も、不思議そうな表情で見回す、映画のロケと思ったのか。
そう、これは初めてのこと、客もマスターも、西鉄にだって何が起きるもわからない。
そこにいるすべての人にとって、異空間の始まりだった。
ちいさなおともだちと写真を撮って遊んだこと
60年前、間違えて降りたこの駅から隣の駅まで、暗い中、線路沿いに歩いて帰った兄と弟の思い出を話す、洒脱な着流しの紳士
映えを求めてカメラを構えるインスタ勢
夏の終わりを感じさせる高い空ととんぼ、コーヒーを片手にあちらこちらで自然と笑みがこぼれる。
どこか郷愁を感じさせるコーヒーの香りとあの景色、賑わいを見せた無人駅。
そこには
コーヒーがつなぐ縁となにもない、ただゆるやかに流れる贅沢な時間
があった。
***
知らない街が私の、私たちの懐かしい場所に変わる。
あれは夢だったのか
日焼けの跡が消える頃
あのコーヒーと、なにもない を探しに、またアジサカを味わいに行こう。