中学生になるまでは手作りチョコを贈ります【わたしのバレンタイン】
バレンタインデー、私は学生時代も社会人になってからもチョコレートを手作りしたことはなかった。
溶かして型に入れて冷蔵庫で冷やしても、やっぱりおいしいメゾンのチョコにはかなわないって知ってたし、わざわざ私が作ったのっていうのもなんだか気が引けて。
それが、まさか9年間もチョコレートづくりをするとは考えていなかった。
♡♡♡
ムスメが幼稚園に入園し、とくに問題もなくイベントごとを終え、もうすぐひとつ上のクラスになるのね、なんて感傷に浸っていたころ、その日はやってきた。
友チョコ、それは好きな男の子のために渡すチョコではなく、男女問わずお友達全般に渡すものを指す。
うーんと、それは誰に渡すの?
「えーとね、〇〇ちゃん、〇〇ちゃん、〇〇くん、〇〇ちゃん、……」
そんなに渡す子がいるの?お母さん覚えられないな、全部でいくつだろう。
「7か8くらい」
7か8、それから双方の祖父母、もちろんお父さんにもだよね。
これは大変なことになった、材料をそろえるところから大変なことになるぞ。
全部チョコじゃなくてもいい?クッキーとか。
「えー、友チョコはチョコじゃないの?」
みんなチョコばっかりだったら食べ飽きちゃうでしょ。
そうなだめて、レシピを検索し、一度にたくさん作れてかわいらしいものをピックアップする。
名前を挙げていたお友達の中にはパパがパティシエの〇〇くんがいる。どんなものを作ったとしても見劣りしちゃうんだから。
材料だけはいいものを使ってごくごくシンプルな手順で作れるものを選んだ。
スーパーや駅ビルまでラッピング用品からお菓子の材料まで買い出しに行き、あれこれ買い込むと結構な金額になっていた。
子どもが楽しみにしているイベントだし、この出費は他で穴埋めすることにして、作る順番やらメッセージカードを書く準備やら、いったん計画を立てる。
1日で作りきれる量ではなく、祖母宅には作ったものを宅急便で送る必要がある。
普段から作りなれているわけもなく、3歳の子が最初から最後まで作るのはムリがある。
しかもこんなに大量のお菓子。
私だってお菓子作りは慣れていない。きっちり計量して表面を滑らかにして丁寧に丁寧に作るのは向いてないの、大雑把なんだもん。
チョコを溶かしてアラザンやスプレーチョコをトッピングする、例のお子様専用チョコを作りたいらしいので、それに1日、クッキーやカップケーキを翌日私メインで作ることにして。
お菓子づくりプランは完成し、あとは作るのみ。
ムスメはエプロンと三角巾をして大喜びで作り出す。
溶かしたチョコをアルミの型にスプーンで流し入れ、色とりどりの飾りを載せていく。チョコペンは扱いが難しく、途中で固まってしまうので何度も何度も湯煎をする。
果たしてこれはおいしいんだろうか
そんな野暮なことを考えながら、楽しそうに手や顔や洋服にチョコをつけたムスメと一緒になんとか作り上げた。
思った以上に集中して作っていたムスメに驚き、明日私がメインで作るお菓子の方がうまくできないかも、と不安がよぎるも仕方ない。
バットに並べて冷蔵庫に入れたチョコレートたちが誇らしく笑っていた。
翌日も朝からバターや卵を室温に戻し、粉や砂糖を量る。昨日の今日でもう飽きているだろうと思ったムスメも生地をこね、型抜きをしてなかなかの戦力になっている。
「お母さん、お菓子作り楽しいねー」
無邪気に笑いながら作るムスメはお菓子作りの才能がありそうだ。私は二日連続のお菓子作りにもう疲れてる。
温度を設定したオーブンに天板を入れてスタート。
バターと生地のあまーい香りが部屋中に立ち上る。
この香りに満たされる瞬間は、正直言って食べる時よりも好きかもしれない。
何度も何度も中を覗き込みながら焼き上がりを待つ。
出来上がったクッキーは焼きムラがあるけど、これが手作りの良さよ。
そう自分に言い聞かせ、網の上で冷ましながら次の支度をする。
夕方、もうご飯の支度をする気力も残っていない。
出来上がったクッキーとカップケーキをオットとムスメに味見してもらい、OKが出た。
これで明日送ったら私の仕事は終わりだ。
手作りチョコとお菓子を一つずつラッピングして、メッセージカードを添える。パッキンで割れないように注意して送り出した荷物。
差出人はもちろんムスメの名前。
バレンタインデーには双方の祖父母から電話が。
「〇〇ちゃん、上手にできたねえ、おいしかったよ。」
まんざらでもない様子のムスメは電話を切ると、「お小遣い送ってくれたって」とニヤリ。
この日から友チョコと祖父母、お父さんへのチョコづくりは小学校卒業の年まで続くのでした。
もちろん私は毎年労力と材料費を差し出す人です。お小遣いはありません。
体力を消耗しながらも大量にお菓子を作っていたあの頃が懐かしい。
書くンジャーズ日曜日担当のふむふむでした。