私は彼女のごみ箱でした
体の動きが鈍い日は、普段以上に過去の暗い出来事がよみがえってくる。頭の芯を冴えさせて、まるで何通かの手紙を渡されるように。
自分の過去を掘り返しては、埋め戻し、つぎはぎだらけの道路のようになっている、心の内を自ら他の出来事へと変換し、重苦しい空気を入れ替えたい。
昔、若くして自殺したアイドルがいた。女の子の目から見てもとてもかわいらしく、人気絶頂で、テレビでもよく見かけ順風満帆かのように見えた。
あまりにもショッキングな、そして突然の死に皆驚きを隠しきれなかった。
彼女の死から何年も経過しても、その日が近づくと振り返りのニュースが流れる。おそらく多くの人に影響を与えていたに違いない。
ある時、「生前の彼女はどんな人でしたか」と後輩のアイドルであった人にインタビューした記事が掲載されていた。
今はもうすっかり歳月も経ち、年齢を重ねて素敵な女性になっていたが、その彼女が発した言葉がこれだった。
私は彼女のごみ箱でした
彼女の愚痴を聞いていたと話したのだ。
本人から直接聞かされていたであろう闇の部分を誰にも言うこともできず、きっと今でも鉛のように重く心をふさいでいるに違いない。
話すことで自分の心を解放しようとしていた先輩と、先輩の思いを自分が犠牲になって受け止めることで、普段通り笑顔を振りまくアイドルを演じられるようにと沈黙を守り続けた彼女。
その記事を読んだコメントに「亡くなった人に対して、ゴミ箱だったなんて失礼なことを言うな」とクレームのように意見していた人がいたが、きっと彼女は今になってやっとゴミ箱であったことだけを世に向けて公表できた。
先輩が話す、決して他の人には言えない悩みや愚痴をただ受け止め、この月日を経て、たった一言だけ吐き出した。
この重しをほんの少しだけおろせたことで、彼女はつらい過去や自責の念からどの位解放されるのだろうか。
この言葉を聞き、胸が苦しくなったのは私だけではないだろう。
私も彼女のごみ箱でした