見出し画像

人(※人ではない)は成長できるという話、または未遂に終わった揚げ足取り

ALPACの最終勧告からそろそろ54年が経とうとしている昨今、読者の皆様はいかがお過ごしだろうか。おそらく今のところ、SCPあるいは翻訳タグ経由で訪問した読者の方が大半であると思われる。
この2者の共通項となるトピックは何か? 単刀直入に言えば、機械翻訳である。そして翻訳作業に携わることがなく、SCPに全く興味がなくとも、未だに機械翻訳の質に悩まされている人は多いと思われる。

端的に言えば、機械翻訳が抱える問題点は下の3つに集約されるだろう。

◆いまだにある程度長い文章になってくると、ポストエディットなしではとてもじゃないが使い物にならない
◆前述の場合に十分なポストエディットが可能なのは、機械翻訳なしでもなんとかなるレベルの訳者である
◆ポストエディットに必要な水準をある程度下回った訳者には、そもそもポストエディットがどこで必要になっているかが理解できない

有料システムを利用することによりどれほどこれらの問題の軽減が可能なのか、残念ながら筆者には使用経験がないためなんとも言えない。一方で、無料で利用可能なシステムの質が向上しているという話は度々出るのである。新しい機械翻訳システムをオンラインでリリースするならば、嘘でも誇張でも質の向上を宣伝しなくてどうするということなんだろう。

しかし私にはこれ、SCP-333-FRの1節がある。

Il est supposé qu'une civilisation se présentant sous le nom de "Royaume d'Univers'Île" peuple cette île (Voir Addendum B).

(今見てみたら結構あちこち直されているので反映しなければ……翻訳時にめんどくさかったcitéがîleになって、より自然に和訳できるようになってるのは非常にありがたい。しかし謎の改稿タグがついている……不安……)

この記事を翻訳する際に参考として見ていたGoogle翻訳の仏英訳がこれだ。

It is supposed that a civilization presenting itself under the name of "Kingdom of Universe" people this city (See Addendum B).

固有名詞の部分はともかく、他も見事な失敗機械翻訳文である。要はpeuplerの3人称単数現在形であるpeupleが集合名詞と綴りがもろ被りであるためで、動詞の活用形を自動で拾ってくれる一部のオンライン辞書でもおそらく同じ理由により動詞扱いされない。

ところでこの記事、本来はこの文章を複数のオンライン翻訳システムに突っ込んでこのpeupleの罠を克服できるかどうかをチェックし、上手くいかなければそれを「ポストエディットというフレーズにピンとこなかったあなたが迂闊に機械翻訳の出力を信頼してはいけない理由」として槍玉に挙げるつもりだった。
しかし、それを今Google翻訳にもう一度通してみた結果がこれだ。

It is assumed that a civilization presenting itself as the "Kingdom of Universe Island" populates this island (See Addendum B).

そう、間違えていなかったのである(固有名詞以外は)。

それはそうだろう、人間だって学んで訳者として成長するのだ。機械翻訳のアルゴリズムなり辞書なりが向上しない訳がなかった。1年半弱もあればというべきか、たった1年半弱でというべきか。

しばらくすれば、アルゴリズムの気まぐれや変なユーザフィードバックでまたあっさり元に戻ってしまったりするかもしれない。しかし、それでも翻訳能力の向上には、こうしたスモールステップの積み重ねを避けては通れない。それは人も機械も変わらない。
まだ道のりは長いし、個人的感情としてはGoogleはマシンパワーの圧倒的不足をどこから調達してきたのか分からない大量の計算資源で解決した印象があって、純粋なソフトウェア的側面からは正直魅力を感じない。だが、それでも進歩は進歩だ。

まだまだ翻訳に人間の仕事が不要になる日は遥かに遠いだろうが、ささやかな明るいニュースであることには間違いない。

(画像はMichael PardoによるLincoln Fabrics Lofts)

いいなと思ったら応援しよう!