ボロアパートとともに—映画『ダージリン急行』と下北沢の思い出
上京して7年、どうしても忘れられない思い出がある。
下北沢のボロアパートで、友人と蚊取り線香の匂いを纏いながら映画『ダージリン急行』を観た日。
外に干した洗濯物が日差しを揺らめかせ、窓際の小さなテレビを照らす。怠そうに映画を観ているようで観ていない友人。中盤のイイトコでピザの宅配員がインターホンを鳴らす。なんてことない昼下がり。
『ダージリン急行』は、2007年に公開されたウェス・アンダーソン監督のアメリカ映画だ。1年ほど絶縁していた3兄弟がインドのダージリン急行に乗り、母親に会いに行きがてら、絆を取り戻そうとするストーリーである。
フィルム感ある映像の質感。ジェイソン・シュワルツマンをはじめとした俳優のコミカルさが光る演技。テンポの良いストーリー展開。それぞれが絶妙で心地よく、小さなテレビ画面に引き込まれた。
ピザを頬張り、レモンハイを啜りながら映画に観入る。友人は隣で気怠そうに、携帯とテレビ画面を交互に見ている。
映画では3兄弟が食器をカチカチ言わせながら、埃がかぶってそうなインド料理にかぶりつく。映画を観終わった時、丁度ピザが無くなる。
「カレー食いに行かねえか?」
ふたりはそう言い、下北沢駅前のインドカレー屋に駆け込み、その後夜が更けるまで安居酒屋で酒を流し込む。なんてことない夜。
泥酔しながら、ひとりボロアパートに帰宅する。小さなテーブルの上には、ピザの空き容器や空き缶が転がっている。
「あした片付けよう…」
明日やろうと思ってやれた試しがない。でも面倒だし、何だかこの日の余韻に溺れていたいと感じた。散らかった部屋をよく見ると、友人が持ってきたらしい映画のDVDがもう一本出てきた。持って帰るのを忘れたのであろう。
映画は、『グランド・ブダペスト・ホテル』
ウェス・アンダーソン監督繋がりで持ってきたのだろうか。こいつは映画のチョイスが最高だ。
「次回はこれを観よう。」
そう思い、早7年が経過した。私は郊外に引っ越し、友人とは何か疎遠になってしまった。特に理由はないんだが。
今度久々に、そいつを誘って映画でも観ようか。映画は観た時の記憶や人間関係を繋げてくれることを痛感した、なんてことない一日の思い出である。
#映画にまつわる思い出
#この街がすき
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