プレイブックの世界#003
岩澤は廊下を歩き続けていた。その途中、いつも通っている餃子屋の 美味餃子妹の自称元女優の言葉で我に返った。ここはどこだ?いつもと違う廊下を歩いている。我に返る。不思議な言葉だ、岩澤は辞書でこの言葉を見る度に頭の回転が三秒止まる。我に返った岩澤の脳裏に言葉が横切る。
魚の目に水見えず人の目に空見えず岩澤の目に現実見えず
あまりに身近なものは気づきにくい。この言葉は広辞苑と角川類語新辞典の精読と写経の営みから湧き上がった。岩澤は入社直後、顔から炎が吹き出るレベルの誤った漢字の読み方をして以来、言葉の学習に励み語彙を膨らまし続けていた。膨らますだけではない。岩澤は文字の羅列から生じる画像や動画も咀嚼した。時間を費やさないと身に付かない、ということを実感したのは筋トレで、その日だけ一日二十四時間トレーニングしても翌日にはムキムキにならないが、毎日三分の筋トレ継続が筋肉道を切り拓く。日々の言葉の稽古は岩澤の原動力となった。文字の連なりから現れるイメージをキャッチする原動力。語彙を知らない頃の岩澤は肉眼で世界を把握出来なかった。世界を語彙で掴み取る。眼には見えない世界。言葉に貪欲な者だけが見える現実とその先にある別世界。言葉はrhythmで動き出しrhymeで姿を変える、岩澤が言葉のトレーニングをやって感じたことだ。岩澤は辞書をめくりめくり興奮する瞬間があった、ある言葉のイメージが、全く繋がりがない語句と戯れ、うねりとなる。せせらぎが聞こえそうな浅瀬がいつしか合流し本流となりコンクリートを木っ端微塵にするという話ではない。世の中の現象の延長ではなく、全く異なる世界がどこからか出現する。何か得体の分からないもの。その世界を垣間見ると岩澤は身体がゾクゾクした。岩澤はだんだん、この感触を思い出して興奮してきた。岩澤は毎朝毎夜、辞書を薄氷を踏むかのように薄紙をひとめくりしてきた。原始人が狩猟を成功させなければ生き延びることが出来ないように危機感が岩澤の言葉の狩猟を押した。「食うか食われるかのひとめくり」 生き残りをかけた狩猟、狩人、岩澤。文字で埋まった薄紙からフワッと浮き立つ意味の流れの心臓を狙い岩澤スコープが照準を定める。心臓の鼓動が速くなり、額には汗が滲む。岩澤は息を止め、ライフルを構える。
岩澤「絶対に逃さねぇぞ」 辞書の索引「い」のページが開く。
スコープの先には文字が揺らいでいる。「韻」「淫奔」「淫乱」「淫猥」
トリガーを引く体勢にはいろうとしたが、文字を見て身体が動揺した。
岩澤「韻と淫奔、どうすりゃいいんだ?」
狙いがなかなか定まらず、集中力が途切れそうになった。一度、スコープから眼を離し、再び集中する。呼吸を止めた。狙いを定め、トリガーを引く。想像力が獲物を捉え、原動力が駆動する。ライフルを地面に置き、立ち上がった。岩澤のrhymeが流出する。
俺の名前は岩澤 東京No.1カサノバ
遊び場は五反田 五反田 State of Mind
眠ったら最後 現金はキャッチのもんだ
街に落ちる金玉 転がる五反田まぼろし坂
地図から消失の極楽 幻想倶楽部
ウキウキWATCHING 好事家情事
開宴直前 ドスケベ青年隊リーダー 俺が岩澤
ウキウキオプションWATCHING 枯山水の熟女選ぶさ
what is your name? 俺の名前は岩澤
岩澤は眼が覚めた。
俺は何をしてるんだ?ラップしてたか??
そうだ俺は会社の廊下を歩いていたんだ。
疲れ果て床に寝転がった。そして扉があったんだ。男の姿を見た。
そこまでは記憶している。俺は一瞬、寝落ちしたんだろうか?
岩澤の前に男が立っている。
男が岩澤の目の前に近づいてきた。
男「髪、切った?」
男は見覚えるのある人物だった。なんとタモリさんだった。これは現実なのか?岩澤は混乱した。もしかしてモノマネの人?モノマネの人がいるのもおかしい。どうなっている?
岩澤の表情をみてタモリさんがニヤリと笑った。
タモリ「面白いラップするね〜、やっぱり街にはいかがわしさがないとだめだよね」
俺はラップしたのか?夢じゃなかったのか?
タモリ「ちょっと待ってて、着替えてくる」
岩澤は思った、やはりモノマネの人なんだ、だから着替えて次のモノマネをきっとやるんだ。鶴瓶かな?いやいやそれもおかしい。冷静になるんだ、岩澤は自分に言い聞かした。
数分後、タモリさんが着替えを終えて姿を現した。
岩澤「似合い過ぎでしょ!でもタモリさんですか?タモリさんですよね??」
口元からすきっ歯がのぞいている。
タモリ「人はそう呼ぶね」
本物だ。岩澤は興奮した。
タモリ「じゃ、俺も一曲」
岩澤「えっ?どういうこと??」
急にどこからかビートが流れてきた。
タモリ: Yo, this shit is for Iwasawa
ビート: Tamori is, Tamori is, Tamori is, Tamori is, Tamori is, Tamori is, Tamori is, Tamori is like,
岩澤「これはたしかNasの曲、、、」
(verse 1)
一点突破 俺がHIP HOPPER
アンクルTだぜ どんなもんだ
今声上げるぜ アンクルT
待ちに待っての 久しぶりでの
満を持しての再登場だぜ 今の気分はモロ上々で
何でもできるぜアンクルT 俺の元気はユンケルD で
体でリズム リリックのイズム
あふれて流れて空気で固め
ここかと思えばまたあそこ
one for the イグアナ two for the 生まれたての仔馬
変幻自在のハッカー野郎 アンクルTに逮捕状
three for the ハエだぜ 人間界から脱走
アンクルTの文字列 ホモサピエンスはアクセス不可能
俺のスペクタクルショー ヒューマンはどうやら依存症
聞いているか岩澤 Tの世界に入ったら夢時間 準備はいいか?
Tamori is like half-man, half-amazing
(verse 2)
世にも奇妙な物語
かつての扱いゲテモノ 今は大御所
俺は筋金入りの外国語中毒者
ガキの頃からハングルを吸ってハイになってたぜ
異国語でキメる気分知ってるか?
cokeなんて役立たずの冗談だぜ
福岡でラジオが受信 異国のリズム
俺のハングル 釜山のイズム
イゴスンアサカラマグロノサシミダ
体内に流れる異世界
自由自在に世界を裏表にするぜ
俺がまだ高宮通りで野菜の直販をしていた頃
ストリートには外国語密売人が山ほどいたぜ
今、あいつらが何をしているか知っているか?
ラッパー目指してた奴らが公務員試験を受けてるんだ
書いてるのはリリックじゃなくて稟議書
俺は観客の前でRun-D.M.C.とshow
これが高宮ドリーム 承認なんて必要ねぇ
世界の壁を壊すラッパー アンクルT
四ヶ国語麻雀 世界の言葉をサンプリング
俺のハングルバージョンのはとバスガイド聞いてみな?
ペヨンジュンも黙っていられねーぜ
お前の頭は俺のループについてこれない
ロシア語からスワヒリ語のワープ
これは確かに痛みを伴うってものさ
でも徹子は笑ってりゃいいってものさ
あれは確か小学生三年の時だ
近所で抗争が勃発
フレンチコーストVSジャーマンコースト
抗争の理由は明快だった
フレンチの連中がベトナム語に手を出したからだ
ジャーマンの連中はそれは筋が通らないと主張した
ニセモン野郎がベトナム語に手を出すのは危険だぜ
ベトナムは麻薬みたいなもんだ
一度体内に入れると日常生活に戻れなくなるぜ
ベトナムから抜け出せなくなった奴 知ってるだろ?
俺には関係無い話だけどな 理由を教えてやる
俺はその頃 中洲産業大学の門を叩いた
講師陣のメンツを聞いて驚くなよ
そのころ教授や博士がいたんだぜ
高卒のくせにインテリ気取りの名前がお好みなんだ
今じゃMIT卒より稼いでるけどな
同級生には50centもいたな
当時黒の学ラン着てTamori教授の講義に出席してた
あいつが新曲『In da Club』を出す時だ
俺は50にアドバイスしたんだ
『In Ta Club』に名前を変えろと
50の奴、ニヤリと笑って
「語呂が悪い」と言ったんだ
俺もニヤリと笑って
右手の拳で50のハートを叩いてリスペクトしたぜ
当時パワーを持っていないと言うことじゃ無い
俺はストリートのルールを知ってたってことさ
中洲産業大学で研鑽を重ねた
身につけたスキル フリースタイルだけじゃないぜ
人間界を越える能力を手に入れてしまったんだ
みんな言うだろ、俺のトランペットは笑っているって
俺はトランペットを笑わしているんだ!
And of course, T-A-M-O-R-I are the letters that joke
(verse 3)
Yo, Biatch聞いてるか?お前のことだぜイワッチ
夢か現実どちらか知りたい? それは共存しているんだ
考えてみてくれ 目の前でタモリがラップ
そんな現実あり得るわけねぇだろ
でも今、目の前でアンクルTがラップする
お前は否定できない
夢と現実の世界に来たこと
お前は肯定できない
夢が現実よりリアルということ
プッシュしたら最後 中毒者のスイッチ
do or die 地下世界でフリースタイル
今夜も駆け引き プレイの合図 肩揺らす観客
突然目の前に超大物漫画家登場 プレイ続行
決定的瞬間 rhythmとrhyme
Tのflowは観客と阿吽の呼吸
気づけば全員アンクルTの急性中毒患者
そのあとは説明不要 ヒストリーってことさ
今じゃ天空から世界を見ることもできる
直感の賭け ルーレットボールは
Miles Davisの横に止まったぜ
T for the timeless 異世界にハックかますぜ
世界を変幻自在に流浪 Yo, 岩澤、welcome to In Ta club
Tamori is like life or death
I'm a rebel
My poetry's deep
I never fell
Tamori is like
half-man half-amazing
No doubt
ぶっ飛んだ陽気なイタリア人プロモーターだけじゃねぇぜ
爬虫類や昆虫にもなれるんだ
Tamori is like life or death
I'm a rebel
My poetry's deep
I never fell
Tamori is like
half-man half-amazing
No doubt
岩澤「やばい、やばい、やばい、アンクルT、マジでやばい!」
興奮した岩澤はパフォーマンスを終えたタモリさんに向かって👊を思わず胸の前に出したが、タモリさんは岩澤の握り拳に気を留めなかった。
岩澤「あれっ👊スルー」岩澤は苦笑いした。
タモリ「まだ続きがあるよ」
岩澤はタモリさんの顔を見た。
タモリさんは気持ちよさそうに笑っていて扉の方向に向かって👊していた。