『シャイニング』の脚本が出来るまで⑩ ついに書き始める
キューブリックは脚本を書き始める
キューブリックはキングの『シャイニング』に夢中になりましたが、そのストーリー全てを気に入った訳ではありませんでした。
キューブリックが説明します。
「正直なところ、本の結末は私には少々平凡で、あまり面白いとは思えなかった。私は観客が予想もしないような結末が欲しかった。
映画の観客はハロランがウェンディとダニーを助けると思うだろう。ハロランが殺されると、観客は最悪のことを想像する。確かに観客が恐れるように、今やウェンディとダニーに逃げる術はない。
原作小説で描かれている、動物の形に刈り込んだ植栽の場面から迷路の結末が浮かんできたのかもしれない。実際のところ、そのアイディアが最初にどのようにして浮かんだのかは覚えていない」(ミシェル・シマン著『キューブリック』185ページ)
「『シャイニング』での課題は、本質的な構想を残しつつ、話の切り口の弱いところを作り直すことだった。
小説の中の登場人物は少し変える必要があった。偉大な小説を台無しにするのは大抵この刈り込みの段階だ。なぜならその小説を偉大たらしめているのは洗練された文体と作家の洞察力、そして多くの場合、物語の深さだ。
しかし『シャイニング』の場合は事情が違った。その長所はほとんど全てプロットにあったので、映画向けに脚色するのはあまり問題はなかった。
私と(共同で脚色した)ダイアンは原作本についてたくさん語り合い、それから映画に含まれるべき場面のアウトラインを作った。このリストを何度も並べ替えてはちょうどいいと思うところで書き始めた。私たちは脚本の下書きをいくつか作り、撮影前と撮影中の様々な段階でそれを修正した」※1
キューブリックはキングが書いた脚本を採用しませんでした。
その代わりにキューブリックが脚色のパートナーに選んだのは、ダイアン・ジョンソンという小説家でした。彼女はそれまでに映画の脚本を書いた経験はありませんでした。
ダイアン・ジョンソンとは一体どのような人物なのでしょうか。なぜキューブリックは彼女を脚本作りのパートナーに選んだのでしょうか。
※1:ヴィンセント・ロブロット著『映画監督スタンリー・キューブリック』浜野保樹・櫻井英里子訳、晶文社 371ページより、翻訳の一部を変更しました