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長野県伊那市を子育て世代の起業家の集積地にしたい。その真意をCEO瀬川に聞きました。

戦略広報の斉藤です。いつもnoteを読んでくださってありがとうございます。この度、弊社CEOの瀬川は、本社を構える大阪から長野県伊那市に移住しました。

「なぜ長野に移住したのか?」と思いますよね。今回はその理由と今後の展望を瀬川にインタビューしました。

このnoteでお伝えしたいこと

・教育移住することになったきっかけ
・子どもの教育環境と会社の組織作りに共通する瀬川の信念
・長野県伊那市を子育て世代の起業家の集積地にしたい

移住と新オフィスが決まった今の心境は

左:筆者(斉藤)右:CEO瀬川

【斉藤】改めまして、長野県伊那市への移住と新オフィス(パノラマオフィス伊那)の決定おめでとうございます。今の率直な心境を教えて頂けますか。

【瀬川】はい。楽しみも不安も両方あるというのが正直な心境です。初めての環境に飛び込んで、そこで暮らしながら仕事をするというのは未知の体験です。知らないことをするのは楽しいですしワクワクしています!例えるなら、海外旅行に行く感覚と近いかもしれないです。

【斉藤】瀬川さんの嬉しそうな表情を見ているとこちらもワクワクします。逆に不安なことは何ですか?

【瀬川】仕事を離れた友達との関係です。なぜなら、起業家が自分のメンタルコンディションを保つためにとても大事なことだからです。私にとって大阪のパパ友はとても大切な存在なので、それだけが不安です。移住先の長野であんな仲間ができるのかという不安があります。

瀬川家の屋上にて、パパ友とバーベキュー。写真中央が瀬川

スタートアップは経営者の心が折れたら会社の終わりを意味すると思います。もっと言うと、経営者の心が折れると利益を生み出せずに会社のお金が無くなるので、経営者が自分自身のメンタルコンディションをいかに良い状態で維持するかにかかっているとも言えます。 私はここに関して腐心してきたという自負があり、移住してそれをもう一度構築するのは率直に不安です。

とはいえ、私自身の機嫌は自分でとるものです。なのでこの地では自分から仕事を離れた仲間と繋がるような行動を取りたいと思っています。そこも含めてチャレンジしていきます。

新オフィスはどんな場所か

【斉藤】新オフィスはどんな場所か教えて頂けますか?

【瀬川】はい。オフィスの名前はパノラマオフィス伊那(以下、伊那オフィスと表記)で、伊那市役所が企業を誘致する目的で作りました。付近は田園風景が広がっていて、「ナイスロード」というメインストリート沿いに伊那市役所と伊那オフィスがあります。オフィスの中から、南アルプスと中央アルプスがドーンとそびえ立っている様子を一望できます。ナイスロード付近にはスターバックスコーヒーやコメダ珈琲もあるので、心地よく過ごせる場所です。

伊那オフィス室内からの風景。ガラス張りなので、大自然を一望できます
絵画のような風景が広がっています

【斉藤】いつか伊那オフィスからの景色を見たいです。ちなみに伊那オフィスへの入居にあたり、伊那市や金融機関との面談があったと思います。面談後に、瀬川さんから入居を希望する企業が多いと伺いましたが、面談の手応えはありましたか?

【瀬川】正直に言うと手応えはありませんでした。何故かというと、諸事情によりオンラインで面接を実施したのですが、その際に先方の音声が聞き取りづらく、同時にこちらの声がきちんと聞こえているのか不安を感じながらの面談だったからです。ですがこちらの音声は届いてたそうで無事に伊那オフィスへの入居が決まりました。

教育移住することになった経緯

【斉藤】瀬川さんは奈良県出身で、引っ越し前のご自宅も大阪、そして弊社も大阪に本社を構えており、関西には思い入れも多いかと思います。長年住み慣れた関西から引っ越すのは大きな決断だったと思いますが、長野県伊那市に移住することになった経緯を教えて頂けますか。

【瀬川】はい。移住の目的は子どもの教育環境を変えることでしたが、その過程で子どもの教育環境と会社の組織作りに共通する自分なりの信念が見えてきました。その点は順を追ってお話しします。
まず、私の子どもが通っている大阪市の話からします。うちは大阪市内にある公立の小学校に通っていて、その小学校は学力が高く親からも人気です。ですが、私たち夫婦は、子どもの可能性を勉強という物差しで見ているように感じて、ものすごく大きな違和感を抱いていました。もちろん色々な考え方があるので、あくまで私たちの考え方として聞いて頂けたらと思います。

この点に関しては、妻(編注:フルカイテン従業員の宮本)がnoteに詳しく書いています。

勉強はもちろん大事ですが、小学校の時にその子の評価軸が勉強しかない状態で子どもたちが日々を過ごしていることに違和感を感じました。なぜこう感じたかというと、子どもは色々な可能性を秘めていると思うからです。例えば、勉強が得意な子もいるでしょうし、足が速い子、絵が上手な子、野球が上手な子、歌が上手な子など色々な子がいますよね。そういう小学生ぐらいの時に子ども自身が自分の可能性に気づくことは難しいと思うので、色々なことにチャレンジする機会を増やしてやりたいです。すると子ども自身が「自分はこんなことが得意かもしれない!」と気付いて、好きなことに取り組む中で「やっぱりこれじゃなかった。いや、こっちだな。」とトライアンドエラーを繰り返す時間がとても大切だと思っています。

一言で言うと、子どもの可能性を引き出せるような教育環境を選択したいということです。
残念ながら今の環境では、子どもの可能性を引き出すのではなく、勉強を子どもに押し込むスタイルだと感じました。もう少し詳しく話すと、今の小学校での教育を見ていると、子ども自身が考える力を奪うような教育をしてしまっていると感じます。

【斉藤】具体的にはどういうことですか?

【瀬川】例えば、日本が高度経済成長期だった時代は、色々なことを効率的に回すことで経済が成長する時代でした。なので効率良くモノを作ることが大事な時代だったと言えます。そういう時代は、正解を知っていることに価値があったと思います。何故なら正解を知っていれば効率が上がるからです。

ところが今はそのような時代ではありません。経済は急激に縮小しており、その結果、市場規模も縮小しています。そのような不確実性が高い時代において、正解を知っていて物事を効率的に回せることは本当に価値なのか?と私は考えています。正解を知っていることよりも、問題を捉え課題を設定し、設定した課題を自分で解決できる能力の方が、 これからの時代は重要だと思います。

今お話ししたことを子育てで考えると、生きる力という風に私は表現しています。
私たち夫婦は、子ども自身が生きる力を身に付けるにはどうしたらよいかを考え、そのために自分の得意、不得意に気付くことができるような環境や、そんな子どもへの接し方をしたいと思っています。

【斉藤】なるほど。子ども自身が自分で気付くきっかけを作り、子ども自身が「ああでもない、こうでもない。」と考えて一つ一つ乗り越えること自体に意味がありますね。それに、自分の好きなことがいくつか見つかれば充実した日々を過ごせると思います。

【瀬川】本当にそう思います。好きでもなく不得意なことで周りがその子の評価をしたら、その子は自信を失って自己肯定感が下がりますよね。本当はもっと得意なことが沢山あるのに、その子がいる社会がその子が苦手なことだけで評価されるような偏った社会だった場合、その子の自己肯定感は下がり続けますし、得意なことにチャレンジする意欲も失われてしまいますよね。子どもとは関係のないところで勝手に決まったその社会の偏った価値観のせいで子どもが自信を失って自己肯定感が下がると、その子の未来はどうなるのかと心配になります。
少し環境を変えるだけでも、伸び伸びと育って生きる力がついていくだろうと思います。

【斉藤】 今までのお話は主に子どもに対することだったと思いますが、瀬川さんは自分の家族がより良い環境で幸せを感じることができれば、ご自身のパフォーマンス向上にも繋がると思いますか?

【瀬川】それは大いにあります。家族に対する不安を抱えて仕事をすると、私はすごくストレスを感じてしまいます。仕事と家庭をきっちり分けて考えられる方もいらっしゃるかもしれませんが、私はそこまで器用ではありません。家族、自分、仕事の3つを切り離して考えることはできません。「私、不器用ですから。」のセリフでお馴染みの俳優の高倉健さんのようなイメージですね。スタートアップ界の高倉健さんを目指しましょうかね(笑)

スタートアップ界の高倉健さんを目指すという瀬川のボケに笑う筆者

それはさておき、経営者は家族を顧みず一心不乱に働くべしという同調圧力や、かなり大きなプレッシャーも感じています。でも大事なことは、パフォーマンスを最大限出せる状態を作ることだと思います。私は自分の子ども2人を望ましい環境で育てたいですが、正直、今いる大阪の方が仕事はしやすいという狭間で悩んでいた時期がありました。そのように悩みながら過ごす時間が長くなり、子どもを犠牲にしてしまっている負い目を感じながら仕事をすると、モチベーションに影響します。なので、子どもの可能性を引き出してやれるような理想的な環境に移り、そこで安心して子育てしながら仕事をする方が、私自身のパフォーマンスも良くなると思います。

移住後に大小様々な問題があるかもしれませんが、長い目で見るときっと「移住してよかったな。」と思える日が来ると想像しています。

移住を通じて子どもに育んでほしい力

【斉藤】今のような不確実性が高い時代は、お子さんが自分で課題を見つけて解決する力が重要になると思いますか?

【瀬川】はい、それは確信しています。うちの子どもは上の子が9歳、 下の子が6歳ですが、この子たちが大人になる時代は今よりもっと人口減少と高齢化が進み、日本の国力は落ちていると考えられます。これから更に市場が縮小するので、平均給与は下がるでしょう。そのような混沌とした時代が何十年と続き、市場が伸びていない中で生きていくことになるので、効率化はもう意味をなさないですよね。それよりも一人一人の生きる力を育んであげないと、このような厳しい時代に元気よく生きていく力を身に付けることはできないのではないでしょうか。

自分の人生を振り返っても、自分の親から「これをしなさい!」と言われたことはほぼありません。全て自由気ままに暮らしてたわけではありませんが、親はある程度の道幅を設定して、私はその道幅の範囲内で自由気ままに暮らしていました。この点は親に大変感謝しています。今までの人生で様々な岐路がありましたが、全部自分で決めてきました。自分で色々と考えて決断した結果、間違ったことも沢山あります。ですが今振り返ると、自分で決断してきたことは何が起こっても大丈夫という自信に繋がり、私にとっての「生きる力」になっています。だからFULL KAITEN事業にピボットする前、ベビー服のEC経営で3回の倒産危機が訪れても全て乗り越えることができましたし、なかなか人が真似できない自分だけの強みだと思っています。

自分の子どもたちに対しても、 ある程度の道幅は設定しつつ自分で色々な挑戦をして、多くのことに興味を持ってほしいと思います。興味を持ったことに取り組んで、自分で自分の可能性を引き出せるようになれば良いなと思います。もしその過程で失敗しても、全く気にする必要はないです。何故なら、その瞬間の失敗であってそれが人生の失敗ではないからです。自分で課題を考え試行錯誤を繰り返すと、「あの時のあの経験があったから今がある。」という点と点が繋がるような経験ができると思います。

特にこれから市場環境が厳しくなる日本においては、生きる力が身についている子どもの方がしぶとく力強く、そして楽しく暮らせると思っています。

子どもの教育環境と会社の組織作りに共通する瀬川の信念

【斉藤】今回の教育移住とフルカイテンの組織作りに共通する瀬川さんの信念があると伺いました。具体的にどういう事か教えて頂けますか?

【瀬川】今回の移住に対して凄く悩んでいる時に、子どもが色々な可能性を秘めていて、それを引き出せるような接し方や環境を用意するのが親の役目だと自分の中で悟った瞬間がありました。その時に、「会社も一緒だな。」と思いました。

【斉藤】会社も一緒というのはどういうことですか?

【瀬川】企業で働く一人一人が本当は色々な可能性を持っているのに、経営層やマネージャー、リーダーのようなポジションにいると、社員に対して「自分があなたにしてほしいことはこれです。こんな能力をあなたに持っていてほしい。」というような非常に画一的な見方をしてしまっていることがあると気付きました。
ふと振り返った時に、「私はあなたにこんな能力を持っていて欲しいのに、どうしてその能力が無いの?」や「もっと能力を伸ばして欲しい。」などと思ってしまうのは、学校で子どもが勉強のことだけを求められることと同じだと思ったんです。

そう思った時に、その会社で働く人達にはそれぞれ得意不得意があって、果たして私はそれをどこまで知っているのかと思いました。一人一人の得意がジグソーパズルのようにはまって、誰かの苦手を誰かの得意でカバーしていくような組織ができたら非常に強い会社になると思います。会社を人格に例えるならば、会社の「生きる力」が飛躍的にパワーアップします。そう思った時に、「多様性ってこういうことか。」と思いました。

よく多様性と最近言われていますが、今まで何だかピンと来ませんでした。多様性というものが、会社組織において非常に大事だとメディアなどでも書かれていることは理解できますが、腹落ちしませんでした。ジェンダーの話に矮小化されていることに違和感があったのかもしれませんね。

【斉藤】多様性という言葉は抽象度が高すぎますよね。

【瀬川】そうなんです。それが今回、子どもの教育移住で悩んだ時に、「なるほど。多様性ってこういう事なのか。」という風に腹落ちしました。子どもと同じで社員一人一人の得意を引き出して、ジグソーパズルのように得意がピタッとはまる組織を作り、苦手を得意がカバーするような組織ができていけば、ミッションの達成に繋がる強い会社になると思いました。フルカイテンにとっての多様性というものが、自分の中で見えた瞬間でした。

【斉藤】なるほど。弊社にとっての多様性を引き出すために、日頃から意識していることはありますか?

【瀬川】組織の多様性を引き出すというのは、社員一人一人の得意を引き出すということだと私は定義しています。そして社員一人一人の得意を引き出すキーワードが「成長は螺旋階段」というものなんです。人や会社が成長して成果に繋がることは、直線的に起こっていくものではなく、緩やかな螺旋階段状になっていると考えています。

指で螺旋階段を表現する瀬川

人は油断をすると直線の急成長を求めてしまいます。これは螺旋階段の上からその人の成長を見ている状態です。上から見るとくるくる回ってるようにしか見えず、成長していないように感じます。その状態で早くここまで登ってきて!と言うのは急成長を求めている状態です。

【斉藤】なるほど。では螺旋階段をどう見ればよいのでしょうか?

【瀬川】螺旋階段は横から見ましょう。横から見るとくるくる回りながら、少しずつ上に登っている様子に気付きます。それがその人が見せてくれる「成長」です。これこそが小さな変化や進化に気付くということです。この小さな変化や進化は社員一人一人の得意につながっていく多様性の種です。マネージメントは小さな変化や進化に気づきポジティブなフィードバックを与えて引き出すということをしなければいけないんだなと思っています。社員の小さな変化や進化にマネジメント層が気付くには、螺旋階段を横から見る意識を持つことが大事だと思います。

【斉藤】弊社では1on1を通じて自分やチームに起きた小さな変化や進化を文字にして、その相手に伝える習慣ができつつありますよね。

【瀬川】そうですね。自分のチームやメンバーに対して、お互いがポジティブなフィードバックを返すと、人と人との間で自己肯定感と他者信頼感が醸成されると思います。自己肯定感が高まるのは大事ですが、それだけでは自意識過剰になる可能性もあります。ですが、自分が自信を持っている分野を他の人も「あなたのこういう所がすごいと思います!」と信頼している状態が生まれると信頼関係も高まり、お互いの強みを認識し合う組織が生まれます。なので私はこうした他者信頼感が生まれる環境や組織をどのように作るかを日々考えています。 

移住後の展望や目標

【斉藤】移住してからの展望や目標ですが、「長野県伊那市を子育て世代の起業家の集積地にしたい。」と瀬川さんから伺っています。それはずばりどういうことですか?

【瀬川】スタートアップは東京や福岡、大阪に集中していることが多いと思います。ですがスタートアップの経営者にも色々な方がいて、20代で未婚の人もいれば、私のように結婚してから起業する人もいます。なので起業家にも様々なライフステージがあり、ライフステージが変わると、働き方自体を変えざるを得ない状況もあると思います。
私は子どもが2人いて、今回話している教育環境の問題が自分の中で大きくなっていく中で、家族のライフステージに合った場所で働くことができていないと思いました。
子どもが多感な時期に更に子どもの可能性を引き出したいのに大阪市で暮らしていてはそれができない。だから、起業家として大阪で暮らすことが窮屈だと感じていました。

【斉藤】なるほど。それでなぜ長野県伊那市を選んだのですか?

【瀬川】とても自然が豊かな場所で、外に出て色んな体験をする機会がそこらじゅうにあるからです。伊那市は南アルプスや中央アルプスに囲まれた伊那谷と呼ばれるところにあるので、子どもに貴重な経験をさせてやれると思いました。色々な事に興味を持って、子どもが自分で動き出すような環境があるのは、今の私のライフステージに抜群に合っています。

南アルプスや中央アルプスの山々。空気が澄んでいて遠くまで一望できます
紅葉する木々もありました

もう1つは伊那小学校の存在です。なんとチャイム、時間割、通知表がありません!公立なので、文部科学省のカリキュラムに沿っていますが、60年前から今と同じ方針を貫いている学校です。学校の方針自体が、子どもはみんな可能性を持っていて、子どもの可能性を引き出すのが学校の役割だと言っているんですよ。

特に私が驚いたのが、先生が教室の真ん中に座っていたり、クラス写真もよく見るまじめな感じではなくて子ども達が思い思いのポーズや表情で「イェーイ!!!」という様子で撮影していたりしている点です。このようにありのままの自分を出せるのは、「自分はここにいていいんだ。」という自己肯定感や他者信頼感が醸成される土壌があってのことだと思うんです。つまりどんな個性の子もどんな得意不得意がある子も、一人一人の個性が引き出され尊重されている本当の多様性がそこにあるからこういう写真になるんだなと思うんですよね。

【斉藤】自分を表現できる環境っていいですね。

【瀬川】そうなんです。なぜそんなことができるかというと、伊那小学校が子どもの個性や可能性を引き出す総合教育をしているからです。1年生から3年生までと4年生から6年生までずっと同じクラスで、この3年間で各クラスが「私たちはこんな目標を達成します。」と自分たちで決めて宣言します。今度うちの子が入る4年生のクラスは3年かけてログハウスを作っています。
学校の敷地が広いので、山で木を切ってログハウスの材料を集めます。学校にもヤギやポニー、豚の親子など色々な動物がいて、生徒たちは登校すると自主的に動物達を連れて裏山に草を食べさせに出かけます。夏は学校の横にある小川で遊ぶ子もいます。そうやって日々を過ごしながらログハウスを作るのですが、最初は思い思いの方法で作り始めるので、1年かけても失敗するそうです。そこで、「なんで失敗したんだろう?」と考え始めるわけです。子ども達は「設計図が無いからじゃない?」や「 長さを測る必要があるんじゃない?」などと試行錯誤します。

これが課題を設定して解く力です。設計図を書こう!となったら、長さを決めるために足し算や掛け算が必要ですよね。伊那小学校ではこういう時に算数の勉強をするわけです。学校を見学したら本当に驚くと思いますよ。こんなに子どもたちのイキイキした姿がいろんな形で教室や廊下に所狭しと紹介されている学校、見たことがないですよ。

【斉藤】実践型ですね。座学で学ぶより腹落ちしそうです。

【瀬川】そうです。こういう学び方だと勉強に意味が出てくると思うんです。驚いたことがもう一つあって、ログハウスを作っている途中に次の授業の時間になったらキリが悪いですよね?なので時間割は先生の裁量に任されていて、先生自身も高い能力が求められます。先生に関してもう一つ驚いたエピソードがあります。移住を検討している時に、既に伊那市に移住している方にTwitterのDMで移住の相談にのって頂き、現地を案内して頂きました。そのうちの1人は関東から移住してきた方で、関東では学校に通えない時期があったそうですが、伊那小学校に来て通えるようになりました。学校に通えなかった期間があるので、遅れていた分の勉強に苦労したそうですが、先生はテストの時にその子に答えをこっそり教えてくれました。私はそれを聞いて素晴らしいと思いました。

【斉藤】答えを知っていることは価値ではないというお話でしたが、先生が子どもに答えを教えたことがなぜ素晴らしいと思ったのですか?

【瀬川】「答えが分からずどうしたらいいのかわからない自分」がいる現在地と「答え」とのギャップを埋める手段を考えてみようという先生からのメッセージだと思ったからです。
これからは答えを知っていることよりも、自分で問題を特定して解決する力に価値の比重が移っていくと私は思っています。このケースで言うと、答えを知っているかどうかなんて先生は問うてなくて、「答えは教えてあげるからどういう計算をしたらこの答えになるのかを考えてごらん」というのが先生のメッセージですよね。まさに計算のどこに問題があってどうすれば答えにたどり着けるのかを考えてみようというメッセージなわけですから、これぞこれから大事な生きる力をつける教育だと思うんですよ。このような教育環境があると、子育てというライフステージにいる起業家は安心してその地域で子育てができると思います。

自分の現在地と答えのギャップを話す瀬川

【斉藤】なるほど。ちなみに瀬川さんは、伊那小学校の事を前から知っていたんですか?

【瀬川】いえ、夢みる小学校という映画の宣伝ムービーで知りました。最初は「日本にこんなところがあったんだ!」と衝撃を受けました。詰め込みではなく引き出す教育によってその子が持つ可能性を引き出して、多様な生き方ができるようにしてあげたいです。そういう安心感を背景に、 私も仕事に集中して更にパフォーマンスを上げることができれば、伊那市が私のような子育て中の起業家の集積地になるかもしれないというビジョンもあります。

【斉藤】夢のあるビジョンですね!例えば、子育て期間中の数年間だけ伊那市に住むという柔軟な選択肢があってもいいですね。もし今後移住や環境に悩む起業家やそれ以外の方からも連絡があれば、相談にのりたいと思いますか?

【瀬川】もちろんです!私も既に伊那市に移住している方に沢山相談にのっていただきましたから、少しでも力になりたいです。それに、生きる力を持つ子が増えれば、日本の国益にも良い影響があると思います。

日本は起業家がもっと活躍して、国をもう1回豊かにしたいと思っています。なのでライフステージが変わったことで生きづらさや働きづらさを感じて、ストレスでパフォーマンスが出せないということは避けたいです。家族と仕事はどちらも大事なので、伊那市はそのバランスを上手に取れる場所だと思います。

今回の移住を通じて、フルカイテンをどんな組織にしたいか

【斉藤】最後に、今後フルカイテンをどのような組織にしたいか教えて頂けますか。

【瀬川】強みが生かされ合って、一人一人の個性がジグソーパズルのようにピタッとはまる組織にしたいです。そのために、今回の移住で自分の強みを更に引き出して、ハイパフォーマンスの様子を見せ、自分がフルカイテンの多様性とは何なのかを体現したいと思っています。

取材後記

戦略広報の斉藤です。今回のインタビューから感じたことは「答えはどこにもない」ということです。よく有名な方が書いた本を読んだ後に、「結局どうすればいいの?」と思うのですが、これこそが世の中を力強く生き抜く本質なのかもしれません。
答えがどこにもないからこそ、失敗や成功を繰り返して試行錯誤することでしか、自分が納得する結末は得られないのではないかと感じました。

答えが分からない状態は苦しい時もありますが、それを受け入れて「ああでもない、こうでもない!」と試しながら実践することを楽しみたいと感じる、そんなインタビューでした。

瀬川一家の移住の様子は、弊社のオープン社内報「回転ニュース」で日記形式でお届けする予定です。今後の展開をお楽しみに!

ここまで読んでくださってありがとうございました。 


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