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「選手と“友達”になってはいけない」 オリックス取材に情熱…真柴記者が貫く信念

「オリックス取材の1日」…選手の人柄が伝わる記事の“秘密”

 こんにちは、野球専門メディア「Full-Count」の公式note担当・木村です。編集部のことをもっと知ってもらうため、現場記者の思いや働き方などについて発信しています。

 今回のテーマは「オリックス取材の1日」です。SNSなどでの素早い情報発信や、選手の人柄や努力が伝わる“深み”のある記事で、オリックスファンからの信頼も厚い真柴健記者を直撃しました。前職時代を含め、2021年から3年連続リーグ制覇を成し遂げたチームを「1番近く」で取材してきたひとり。日々の取材スケジュールや、読者の胸を熱くする記事の“秘密”に迫りました。


真柴健記者

真柴健(ましば・けん)
1994年8月、大阪府生まれ。京都産業大学卒業後の2017年に日刊スポーツ新聞社へ入社。3年間の阪神担当を経て、2020年からオリックス担当。オリックス勝利の瞬間に「おりほーツイート」するのが、ちまたで話題に。担当3年間で最下位、リーグ優勝、悲願の日本一を見届け、新聞記者を卒業。2023年からFull-Count編集部へ。

ナイターがある日のスケジュール

9:00a.m. ファームの球場へ出発

  • 1軍戦を前に2軍練習場(舞洲)へ。特に決まった取材目的がなくても選手の表情を見に行くそうです。関係者と挨拶をして少し話すことで、その選手の現状や“思い”を少しずつ取材ポケットにしまっています。

  • 選手がどんな練習をしていて、どんな表情をしているのか。細かい情報(情景描写)は、その選手が1軍で活躍した時にも生きるといいます。

  • 「深い話を聞かせてもらえる関係性を構築したい」。そのため、仕事という意識ではなく、“ただ会いに行く感覚”もあるそうです。


1:00p.m. 京セラドームに移動

オリックス・吉田輝星投手と会話する真柴記者=東京ドームで

2:00p.m. 試合前練習開始

  • 京セラドームに到着。14時から試合前練習が始まると、グラウンドに降り、ベンチ前で選手たちの動きを見たり、話を聞いたりします。

  • ビジターの場合、野手は練習終了ぎりぎりまで汗を流し、すぐ試合に臨むので、話しかけるのは少なめにしています。登板日が決まっている先発投手たちには、次戦に向けての意気込みなどを教えてもらいます。


6:00p.m. 試合開始

  • 記者席のあるスタンドからは、選手の表情まで“はっきり”とは見えないので、現場取材では「音」を感じるようにしています。真柴記者独特の感覚かもしれませんが、試合が動く直前の音はいつもと違うことも。プレーだけでなく歓声やベンチの声、球場全体の雰囲気を音で感じることを意識しています。


9:00p.m. 試合終了後囲み取材

  • 監督のインタビューから始まり、選手の声も聞きます。


10:00p.m. 選手への個人取材

  • 個別で話を聞けるチャンスもあります。帰り際、選手本人に許可をもらって取材をしています。

  • 試合後の選手は疲れているので、手短に簡潔な取材を心掛けます。普段は3~5分くらいでまとめるようにしています。選手本人が熱くなってくるタイミングでは、もう少し詳しく話を聞かせてもらいます。

  • 選手も、取材者も、一斉に動くのでバタバタです。あらかじめ(その日の)狙いの選手や聞く内容を精査しておくことが重要です。


11:30p.m. 帰宅

  • 原稿を書いたり、確認したり、夢の中で選手をインタビューしていたり……(笑)。


意識する「バランス」と「距離感」……真柴記者にインタビュー

 オリックスの番記者を務めてきた真柴記者に、選手へのインタビュー方法や、日々の心掛け、やりがいなどについて聞いてみました。

選手と築く“良い関係性” 最初に仲良くしてくれたのは……?

――あえて聞きますが、仲の良い選手はいますか?
 いきなり難しい質問ですね(笑)。僕の中での「ルール」は、特定の選手とだけ仲良くなるということは、できる限り避けています。どの選手にもファンがいます。ファンの方々に情報を届けるために“偏ってはいけない”という意識はありますね。だから、基本的にみんなと良い関係を築かせていただきたいと思っています。(オリックスナインの皆さん、改めましてよろしくお願いします……!)

 ただ、僕にとって忘れられない選手はいます。伏見寅威捕手(現日本ハム)と吉田正尚外野手(現レッドソックス)ですね。お2人とも(寂しい限りですが)移籍されたので、いろいろ紹介しようと思います。

 寅威さんは、僕がオリックス取材をさせてもらう中で、最初にお世話になった選手です。当時、アキレス腱断裂からの復帰を目指すリハビリ期間中で、ネットスローをされているボール拾いを手伝っていたんです。すると「なんで、俺のことを相手するの? もっと有名な選手にいきなよ!」と言われたんです。

 僕は、グラウンドに戻るため懸命に復帰への道のりを歩む寅威さんに惹かれていました。そのことを伝えると「けん! 宮崎(キャンプ)でご飯行こうな!」といきなり誘ってくださったんです。楽しみにしていた当日、2人だと思っていたんですけど、飲食店に到着すると正尚さんとラオウさん(杉本裕太郎)も来られて……。寅威さんは「みんなと仲良くなれよ!」と“アシスト”してくださったんです。すごく感謝しています。

宮崎キャンプでともに食事をした真柴記者と吉田正尚、杉本裕太郎、伏見寅威の3選手(左から)


――そんな逸話があったんですね……! 選手から話しかけられることもありますか?
 そうですね。選手から話しかけられるのは嬉しいですね。僕は今年で30歳になるんですけど、自分よりも年齢が若い選手も増えて……。「あ、真柴さん!」と呼びかけてくれる選手もいるので、シンプルに嬉しいですね。盛り上がる話を、現場に行く前に忍ばせていることもありますね。


「○打数○安打」の“文字”だけではわからない世界を「見る」

――日々の取材で大事にしていることはありますか?
 1番大切にしていることは「距離感」ですね。近すぎても遠すぎてもダメ。線引きが難しいです。でも、何事も「会話する」ことから始まります。だから、なんでも話してもいいような関係性を築くことを心掛けています。 

 例えば、野球は10回中7回はアウトになるスポーツ。僕らの仕事で7割ものことが「ミス」と呼ばれるのは間違っていると思いませんか? 結果は「アウト」だけど「ミス」ではないんです。そういう細かい言葉遣いやニュアンスを感じることも大切です。

 うまくいかない時の心境は誰も話したいと思わないもの。だからこそ、信頼してもらうことが大切です。「この人なら話せるな」という人になりたいです。だから「記者」だと思って現場に出たことはありません。選手も、記者も、「人間」なので。肩書きというか……“看板”のせいで自分たちの本心を打ち明けられないのは、もったいないなと思っています。

 ただ、間違って欲しくないのは、原稿を書いている時は「記者」だと思っています。泥臭い世界をそのまま伝えるのか、より丁寧に描くのか。それは「記者」の仕事だからです。「○打数○安打」の文字だけではわからない世界を見ることが重要ですね。

アメリカで著書を手渡す真柴記者と吉田正尚外野手

――なるほどです……。これまでで最も印象に残っている瞬間はありますか?
 いっぱいありますよ。歴史的な試合を何度も見させてもらっています。だから、1つを選ぶのは難しいですね……。うーん、Full-Countに転職した際、中嶋聡監督に“もう1度”ご挨拶させてもらった時ですかね。

 2月の宮崎春季キャンプの終盤だったんですけど「え? 来るの遅くない? 何してたん?」と、愛情の込められたイジリは嬉しかったです。ボストンの街に到着した瞬間、スターバックスで休憩していたら、突然“日本語”で「ましば!」と声を掛けられたことも思い出です。もちろん、声の主は吉田正尚選手。半袖半ズボンで奥さまと娘さんたちと散歩されていました(笑)。その流れでショッピングに付き添わせてもらったことは忘れませんね。

 2022年の優勝直後、転職を迷っている時に仙台の横断歩道で信号待ちをしながらラオウさんに人生相談したことも……(笑)。夜中だったのに、優しく相談に乗ってくれました。

真柴記者とラオウさんこと杉本裕太郎外野手


 あとは……。食事を終えてお会計しようとした時に「お代は、もう頂いています」と店員さんに言われたこともありました。ビックリし過ぎて「誰ですか?」と恐る恐る聞くと「山本由伸さま」だったこともあります。その場に一緒に居なかったのに……。翌日、精一杯お礼を伝えました。

 また、とある年末に紅林くんと食事の約束をして、前日に確認の連絡を入れると「すみません、静岡に帰りました」と返事がきた時は爆笑してしまいましたね。

――まだまだ出てきそうですね(笑)。特に気を付けていることはありますか?
「バランス」ですね。特定の人とだけ話す、ということは避けています。同じ選手ばかり原稿を書かせてもらうのもいいとは思うんですけど、他の選手も一生懸命に頑張っているので。失礼のないようにしています。

 そもそもの話になってしまうんですけど、僕の役割は「選手の魅力をファンに届けること」なので。どの選手にもファンがいます。だから、どの人にも喜んでもらえるように「素敵」を発信できるように心掛けています。選手との関係性は「親戚」くらいを意識しています。リスペクトの意味を込めて、絶対に「友達」にはなってはいけませんね。ただ、接し方は「恋人」のイメージがわかりやすいでしょうか(笑)。思いやりある行動が大切です。

宮城大弥投手の講演会でMCを務めた際のツーショット


あえて「自分を記者だと思わない」…仕事の流儀

――SNSなどで自分の名前やキャラクターが定着することはどう感じていますか?
 怖いのと、嬉しいのが半々です。京セラドームの隣にあるイオンで飲み物を買っていたら「いつもありがとうございます」と声を掛けていただいたこともあります。僕は「ファン目線」を心掛けているので、直接ファンの声を聞かせてもらえるタイミングを大切にしています。ここだけの話、SNSの引用(コメントも)や、Yahoo!ニュースのコメント欄もほとんど読んでいます。それが「お客さまの声」ですから。

 でも、やっぱり直接聞ける方が嬉しいですね。僕はいつも言うことなんですけど、営業職や事務職の方が「企画書」を上司に提出するのと似た気持ちだと思って、記事を書いています。こういう仕事がしたい、こういうことが伝えたい……。全ては「熱意と誠意」だと思っています。熱すぎるくらいが丁度いいと思っています(笑)。

――最後にズバリ……やりがいは何ですか?
 正直に言いますけど「みんな」で喜べることじゃないでしょうか。「全員で勝つ」のキャッチフレーズが、僕は大好きです。もちろん“社交辞令”だと思うのですが……。2022年オフ、FA移籍する直前の伏見選手から「けんのおかげでモチベーションが上がったから、3勝は上積みできたよ!」と言ってもらえたことは一生、忘れませんね。僅差でのVだったので、3勝がなかったら優勝できていない、という寅威さんの心遣いは、僕にとってすごく勉強になりました。

 また、ファームでもがいていたり、戦力外通告を受けて“復活”を遂げたりした選手の活躍は、本当に泣きそうになります。というか、マジで泣いてます(笑)。でも、恥ずかしくないんですよね、これが不思議と。30歳なのに(笑)。夜中に涙を堪えられず原稿を書く日もあります。それくらいの感情で記事を書けるのは幸せなことです。何かひとつ、夢中になれることを発見できて、僕は本当に幸せ者だなと思って毎日生きています。

木村のまとめ

 今回は、真柴記者の「リスペクト」を感じるインタビューでした。1軍の試合があっても、ファームに顔を出す。どれだけ仲良くなっても、選手とは友達にならない。「自分を記者だと思わない」という言葉からも、人間関係を構築する上でのプロ意識を感じました。選手だけでなく読者の声にも必ず耳を傾けたり、あえて難しい言葉を使わないで原稿を書いたりというこだわりにも、驚きや学びがありました。なぜ、選手やユーザーから「愛されている」のかが、少しわかった気がします。

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