四月の永い夢 感想

友人に勧められて、『四月の永い夢』なる映画を観た。観たら想いが溢れて止まらなくなったので、noteに書き記すことにした。

昔習っていた古典の先生が、和歌は感情のゲロみたいなもんだと仰っていたが、まさにその通りである。これは僕の感情のゲロです。

まずは映画の簡単な紹介から。

主人公の滝本初海は、国立市の小さなうどん屋でアルバイトをしている。もともとは中学で音楽教師をしていたが、3年前の彼氏の突然の死がきっかけで辞めてしまった。彼女の時間は、彼が去った3年前の4月のまま止まってしまっている。そんなとき、彼が生前最後に残した手紙が、彼の両親から届いて………。

とまぁこんなお話である。

以下は、観て思ったこと雑感。

①止まった時間

まずなにより、初海さんの所々に垣間見える未練の塊に胸を締め付けられた。自室の部屋で寝ているシーンが何度も映し出されるのだが、一人暮らしにも関わらず、布団に枕が二つならべられたまま。まるで彼が隣で寝ているかのように、暮らしを続けている。何気なく読むめぞん一刻。管理人さんと自分を重ね合わせているのだろうか。

非常にプライベートでデリケートなことだし、言いふらすことでも無いから心に秘めてきたけれど、ここに書くなら良いだろう。そもそもこんなところまでこのゲロを読みにきてくれる人には、せめて思いの丈を全部ぶちまけたい。

去年、大学時代の親しい友人が亡くなった。彼女は同じく親しい大学の友人と、在学時からずっと付き合っていて、もうすぐ結婚する予定だった。でも、突然の事故で、未来を奪われてしまった。彼女には何の非もない。今でも思う。なんで、よりにもよってあの子なんだと。本当に残酷な現実で、今でも信じたく無い。でも事実なのだ。事実は小説より奇なりと言うけれど、いくらなんでも酷すぎる。友人たちと訪れた弔問の席で、残されたご家族の悲痛な言葉を聞いた。本当に胸が張り裂けそうだった。

だから、本当に失礼なことだけど、映画を観て、今彼はどうしているんだろう。どんな思いなんだろう。そんな感情が渦巻いて、とてもじゃないが正気ではいられなかった。彼は初海さんと同じで、表面上は明るく気丈に振る舞っていた。でもきっと心に大きな穴が空いてるに違いない。けれど、自分に何ができるわけでもないもどかしさ。こうやって重ねてしまうことに対する軽い自己嫌悪。ちょっと、簡単には処理しきれそうもない。

②国立(くにたち)ノスタルジア

僕は、高校2年生まで、一橋大学を第一志望にしていた。高校2年の夏休み、オープンキャンパスに向かうため、朝6時の新幹線に飛び乗った。だが、静岡あたりで震度6くらいの大地震が発生。新幹線はストップ。その後昼過ぎに運転は再開したが、着いたらもう夕方前で、予定されていたオープンキャンパスは殆ど終わってしまっていた。そしてそんな中で、軽い絶望を覚えながら国立の街を歩いた。駅で降りてしっかり歩いて回ったのは、人生であの一回きりだけ。あそこで過ごす大学生活っていうのも良かったかもしれないなぁと今でも思う。結局、その件で、「神様に受けるなって言われてるんだわ」とか勝手に思い、京都大を受けたのだけど。映画は、国立が舞台なのだが、国立は本当に閑静で落ち着いた街で、主人公がスマホを使っていなければ、まるで平成初期が舞台なんじゃないかってくらいの時の止まりっぷり。まさにこの映画のテーマにぴったりの街だった。今度東京を訪れた時は、ゆっくり歩いてみようと思う。

③教え子の楓ちゃん

劇中には、初海の教員時代の教え子だった楓ちゃんという女の子が登場する。彼氏のDVに悩まされながら、必死に生きようと明るく振る舞い、まるで燃え尽きる前の線香花火みたいな危うさのある教え子。売れないジャズシンガーとして必死に頑張る。自分も教員なので、楓ちゃんに関しては色々思うところがあった。

初海さんが、何気なく楓ちゃんに対して、映画カサブランカを観に来ていたのは、「大学の課題かなにか?」と尋ね、楓ちゃんに、「私、大学とか行ってないでしょ笑」って返されるシーンがある。多分初海さんの中には、みんな普通に大学に行くもんだって先入観があったのだろう。それなりの環境で学び、なんも疑問もなく受験し、大学を卒業して社会に出た人あるあるだ。進学校の教師とかまさにそう。みんな大学行くの当たり前と思ってる。実際は同年代の半分くらいしか大学行ってないのに。自分の当たり前を他人にも適用する。進学校の教師をやっていると、高校の先にはまるで受験しか道が無いような錯覚に襲われてしまうので、色々な人生があることは、改めて心に留めておこうと思った。進路指導する上で。まぁ受験出来るチャンスがあるなら頑張れよとは思うけど。

教師というのは欲張りな職業で、自分以外の他人の人生を、身近で眺めることができる。職業柄、普通なら手に入らない家庭の込み入った事情なんかも耳に入る。だから気分はまるで、教え子の人数分の私小説を読んでいるようなものだ。楽しいものばっかりなら良いのだが、そんなことはない。なんでこの子がこんな目に…って思わされるような理不尽な境遇に直面している生徒を見て、しかし何もできない無力感に苛まれることもある。まだ教え子に卒業生は居ないけど、この先、教え子がDV彼氏or彼女に苦しめられているなんて知ったらどんな気持ちになるだろうとか思う。教師になるとき、自分の元担任に「他人の人生に過度に感情移入し過ぎたら、身体が持たないから、程々に流すのが教師うまくやるコツ」的なことを言われたが、果たしてそうなんだろうか。うーん。たしかに他人の人生に振り回されたくは無いけど、心は殺したく無い。難しい。

④音楽がいい

とても静かな映画なのだけど、それだけに時折挟まれる音楽は本当に胸を打つ。皮肉としか思えないほど繰り返されるAs Time Goes By、素敵な主題歌。心地よいピアノ。ぜひ静かな環境で見て欲しい。


ここまで、雑感で色々書いてきた。あまりいうとネタバレになるので、少し伏せるが、桜舞い散る最初のシーンと対比的に描かれた、終盤の木陰で佇むシーンは、静かなカタルシスがあった。最後に死んだ彼の母親の言葉を噛み締めて感想を締めようと思う。なんだか哀しい言葉だけど、妙に心に残った。素敵な映画なので、気になった人はぜひ観てみて欲しい。Amazon primeで観れるよ。

「貴方まだ若いから、人生何かを獲得していくものだと思っているかもしれないし、私にとってもある時期まではそういう風に見えていたけど、でも本当は、人生って失っていくことなんじゃ無いかなって思うようになった。その失い続ける中で、そのたびに本当の自分自身を発見していくしかないんじゃないかな。」

いつか必ずやってくる、誰かや何かとの別れの時のために、この言葉を胸に刻んでおきたい。


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