変な昼飯

昨夜はローソンで夕食を買ったので、今日の昼はセブンイレブンにした。国道沿いには、コンビニやファストフードの路面店がたくさんある。三谷は、温めたメンチカツ弁当とウーロン茶、缶コーヒーを持って、自分のトラックに戻ってきた。

「…がお届けするグッドスマイルレディオ、本日のテーマは『くせになる味』。リスナーの皆さんからのメールお待ちしてます」

 12月になったのに、あたたかい日だ。火曜日の午後1時半過ぎ、駐車場には自分と同じような長距離トラックが何台も停まっている。食事はもちろん、昼寝をしたり業務報告をしたり、それぞれ束の間の休憩を過ごすのだ。東京生まれ東京育ちの三谷にとって、地方のコンビニの駐車場の広さは衝撃的だった。店舗面積の10倍はありそうな駐車場がいかに重要か、トラックを走らせていればすぐに理解できるようになったが。
 トラックの運転席は高くて、見晴らしがいい。のんびりとした国道8号線沿いの田んぼと晴れた冬空を眺めながら、三谷はごはんとメンチカツを交互にほうばった。

「ラジオネームりっぴーさんから、ゆみさんこんにちは、はいこんにちは、わたしのくせになる味は、パクチーたっぷりのスープです。職場の近くにあるタイ料理屋さんで、今日のランチにも食べました。これぞ、くせになる味!といつも思って食べちゃいます…ということで、女性はパクチー好きな人多いですよねー。私も時々無性に食べたくなるなー」

 パーソナリティの明るい声は耳に心地よく、でも情報は何にも頭に残らない。三谷は、ラジオのそういう軽さが好きだった。パクチーたっぷりのスープ。変わった風味の香草という知識くらいはあったが、味のイメージはない。朝食はとらないので、1日2回の食事を3種のコンビニのルーティンでほぼ回している。コンビニで買えないものを、三谷は食べることができない。

「次のメールは、ラジオネーム、くまむすめさん。いつもメールありがとうございます。私は最近、ミントアイスに目覚めました。今まで食べたことなかったんですが、友達のを一口もらったのがきっかけで、すっかりハマっています。夏はもちろん、冬に食べてもあの爽快感がたまりません…ということで、ミント味のアイスね。あれも、好きな人にはたまらない味なんですよねー」

 ミント味のアイスなら、探せば買えるかもしれないな、と、三谷は漬物を食べながら思った。たいした意味はないが、いつも漬物を最後に残してしまう。ウーロン茶で流し込み、弁当のゴミをビニール袋にまとめると、缶コーヒーを開けた。三谷にとってコーヒーは食後に口をさっぱりさせるもの、眠気覚ましのために立ち寄ったコンビニでとりあえず買うものでしかない。ブランドなんて気にしない。味や香りが違うのはわかるが、こだわるほどのものでもないと思っている。
 ミントは歯みがき粉の味とか言ったら、ひんしゅくを買うんだろうな、と三谷は思った。パクチーにせよミントアイスにせよ、今まで食べたことはないし、食べたいと思ったこともない。なのに、なぜ味に関する知識と、どうでもイメージは知っているんだろう。それぞれの実際の味より、自分の知識のでどころの方がよっぽど気になった。どのみち、失言でひんしゅくを買うような相手が三谷にはいない。

 午後からは国道8号線を北上し、夜には新潟に着かなければいけない。三谷は食後の少しぼんやりした頭で、この後の道程を考えた。そこまで急がなくてもいいが、夕方の渋滞につかまる前に、ある程度は走っておきたかった。15分だけ仮眠を取ろうとタイマーをセットする。

「…そろそろお別れの時間が近づいてきました。今日のテーマ『くせになる味』にたくさんのおたよりありがとうございました!この後のランチは、パクチーのスープとミントアイスにしようかな。本日もお相手は…」

 変な昼飯、とつぶやいてラジオを切り、三谷は体勢を整えて仮眠に集中する。

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