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黄金町バザール2012

5回目を迎えた黄金町バザール。横浜の黄金町・日の出町界隈のスタジオや旧店舗を舞台に、33組のアーティストによる作品が展示された。2008年以来持続してきたせいか、今回の作品はモノとしての作品があれば、コトとしての作品もあり、観客参加型やプロジェクト型など、以前にも増して作品のバラエティが豊かになっていた。

たとえば近年独自のアニメーション映像を精力的に発表している照沼敦朗は、アニメと同じ薄暗い色合いで空間じたいを塗り上げ、同じ街並みを描き込んだうえで、その壁面のひとつにアニメーション映像をプロジェクターで投影した。ふつう映像を見る場合、映像のこちら側とあちら側ははっきりと分断されているが、照沼はその境界線をあえて溶かし合わすことで、映像の世界に没入するような感覚を巧みに引き出していた。

一方、照沼とは対照的にシンプルな空間をつくったのが中谷ミチコだ。浮き彫りとしてのレリーフではなく、取り込んだ内側に着色する「沈み彫り」(村田真)の作風で知られるが、今回も会場に入ると白い壁面に動物を描いたく作品があった。もともとある壁に直接彫ったのかと思ったら、壁面全体に白い壁を仮設したうえでいくつかの図像を彫り込んだようだ。かつて違法風俗店が軒を連ねていた猥雑な街並みとは明確に一線を画して、白い空間を徹底してつくりあげた潔さが気持ちいい。

さらに中谷とはちがい、黄金町の街に正面から介入したのが、太湯雅晴である。自らに与えられた展示会場を、その近辺で働く日雇い労働者の男性に宿泊場所として提供し、ここにいたるまでの経緯を記録した映像もあわせて発表した。じっさい、会場の一角には彼が寝泊まりする仮設小屋が設置されていた。社会から切り離しがちなアートという領域を、あえて社会に向けて開き、その生々しいダイナミズムを持ち込もうとする志は、高い。ただ、太湯が「ホームレス」に声をかけている映像を見ると、宿泊場所の住人として当初「日雇い労働者」ではなく「ホームレス」を想定していたことがわかるが、その趣旨を説明するときに用いる「アート」「作品」「展示」という言葉が、彼らにはことごとく通じていないのが一目瞭然となっている。社会に直接的に介入しているにもかかわらず、アートと社会の隔たりがあらわになっていたのである。

アートに社会を持ち込むだけでなく、社会にアートを持ちかけること。太湯の作品は、社会に介入するアートにとって今後乗り越えるべき課題を、じつに明快に展示したと言えるだろう。そして、これは黄金町バザールをはじめ、全国各地のアートプロジェクトが考えるべき問題でもある。

初出:「artscape」2013年01月15日号


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