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AIを駆使したプーチンの再現

Boris Starling, The Telegraph, 2025-01-05


プーチンが見たくないAI支援の型破りな伝記映画

ボリス・スターリング
2025年1月5日

ポーランドの監督パトリック・ヴェガが、ロシア大統領をAIを使ったデジタルハイブリッドとして描いた伝記映画を制作し、その内容がロシアの諜報機関を挑発しているといわれています。


映画の独特な手法

ポーランドの俳優スワボミール・ソバラを起用し、2年間にわたってプーチンのボディランゲージや歩き方、部屋への入室の仕方を研究させた後、AIを使ってプーチンの顔をソバラに重ね合わせる手法が取られました。この結果として生まれたのが映画『プーチン』です。

「観客がスクリーンで見るのは、まさに本物のプーチンでなければならなかった」とヴェガ監督は語ります。一般的な俳優やメイクでは、世界中が知る人物を納得させるのは難しいと判断しました。そのためAI技術が駆使されましたが、現段階ではAIのみでは感情表現や複雑な動作の再現が不十分であるため、実際の俳優とのハイブリッドアプローチが採用されました。


挑発的な内容とストーリー展開

映画は、幼少期にいじめられたプーチンが「ひざまずいて生きるよりも立って死ぬ方が良い」と決意し、大人になって柔道を披露するシーンに進みます。また、彼が前大統領ボリス・エリツィンに「権力を私に渡すべきだ」と迫る場面や、プレイボーイの衣装を着た女性を追いかけるハンティング・パーティーの一員として描かれる場面もあります。

さらに、映画は終末期のプーチンが病院のベッドで震えながら汚れた大人用おむつをつけているという、非常に侮辱的な場面を含んでいます。このような描写は、ロシア側の諜報機関の関心を引き付ける要因となっています。


ロシア諜報機関とのやり取り

ヴェガ監督はカンヌ映画祭で、ロシアの諜報機関が映画スタッフに連絡を取り、映画や脚本の情報を入手しようと試みたと語りました。彼はユーモアを交えながらこれに対応し、架空の「衣装デザイナー」を装って交渉を続け、最終的にはポーランド諜報機関の銀行口座を送信先として提示したところ連絡が途絶えたといいます。


リスクを恐れない監督の姿勢

ヴェガ監督はプーチンを怒らせることのリスクを承知しながらも、自身の作品のメッセージの重要性を信じています。彼は「絶対的な権力では決して満足しない」というポスターのキャッチフレーズを掲げ、プーチンの権力への執着を批判しています。

また、監督はAI技術の可能性にも触れ、「AIは創造を奪うものではなく、複雑な作業を簡単にし、不可能を可能にするものだ」と述べています。


映画が放つグローバルな影響力

この映画は現在、50以上の国で配給権が販売されています。インドやブラジル、韓国、アフリカの国々でも注目されており、プーチンの物語が世界的な関心を引き起こしているといいます。

ヴェガ監督は「AIは計算能力の道具にすぎない。キャラクターの感情的な深みやリアリズムは、最終的には人間の経験から生まれる」と語り、AIと人間の協力が映画制作の未来を切り開く可能性を示唆しています。

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