読書めも『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』 小林 恭子 (著)
私の読書メモをまとめてみました。実際に書かれている内容とは異なる部分があります。本に何が書かれているかを知るためには、やっぱり、自分でちゃんと読むことをお勧めします。
著者
小林恭子さんは、イギリス在住のジャーナリストで、専門分野は外交・安全保障、ダイバーシティ、メディアなどです。「新聞研究」(日本新聞協会)、「Galac」(放送批評懇談会)、「メディア展望」(新聞通信調査会)でメディア論を連載したり、『英国メディア史』『英国公文書の世界史』『フィナンシャル・タイムズの実力』などの著書があります。
本を出すまで
1922年にイギリスで放送サービスとして生まれたBBCは、2022年で開局100年を迎えました。どれだけの人がBBCに興味を持っているのかわかりませんが、これまで取材してきたBBC全般に関する情報を、専門書ではなく、一般の教養書として出したいという思いがありました。
様々な情報を集めて、それをまとめる。この本は、そうやって出来上がった本です。著者の考え方を広げるのではなく、きちんと取材した事実を並べ、最終的には読者に判断をゆだねる、ジャーナリズムの精神で書かれています。
ジャニー喜多川の性加害事件について
実は、ジャニーズ問題に関する記述は4ページしか書かれていませんので、掘り下げて論じてほしいと思って読んだ人には期待外れだったと思います。
この本で示しているのは、なぜBBCが日本の性加害問題を取り上げたのかということです。
イギリスでは、2010年以降、ロザラム児童性的搾取事件、ノーザンアイランドにおける誠意的虐待など、大きな事件が報告されています。BBCの人気番組「Jim'll Fix It」の司会者ジミー・サヴィルの起こした事件では、制作した報道番組「Exposure: The Other Side of Jimmy Savile」が直前になって放送取りやめになってしまうなど、公共放送として、ジャーナリストとしての問題が問われていました。
ジャニー喜多川の性加害に関しては、1999年に週刊文春が取り上げ、ジャニーズ事務所から名誉棄損で訴えられました。その民事裁判で「その重要な部分について真実」とされましたが、それ以上の追及がされませんでした。イギリス人ジャーナリストの Mobeen Azhar は、2019年7月に、ジャニー喜多川が亡くなった後も、児童に対しての性的虐待の罪が放置されているばかりではなく、ジャニー喜多川が神のように扱われていることに驚きを隠せませんでした。著名人だから、人気があるからという理由で加害行為が許されるという状況は、サヴィルの事件と同じ構図に見えたのです。
日本での性加害事件については、2018年にジャーナリストの伊藤詩織さんをナレーターとして「Japan's Secret Shame(日本の秘められた恥)」が放送されており、突然出てきた企画というわけではありません。
BBCは、「Japan's Secret Shame(日本の秘められた恥)」の放送後の日本の反応がほとんどなかったので、2023年に放送された「 Predator: The Secret Scandal of J-Pop(J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル)」がこれほど反響があるのは意外でした。
続編として「Our World: The Shadow of a Predator(捕食者の影 ジャニーズ解体のその後)」が放送されました。※Amazon Prime VideoのBBCニュースチャンネルで視聴できます。
BBCの受信料制度
BBCの国内放送の財源は受信料によって賄われているため、時の政府や商業上の圧力から独立した立場を保てるはずでした。
しかし、受信料の値上げ率を決めるのは担当大臣で、どの政府もこれを利用して国の安全保障や国益のためだと称して検閲し、インタビュー場面の削除や放送指し止めなどを求めてきました。理事会が放送を事前に試写し、内容に口出ししてくることもありました。そもそも理事会は、個々の番組の編集業務には介入しないのが原則です。
BBCの最高経営責任者であるディレクター・ジェネラルは、BBCの活動や方向性を明確に示し、組織全体のリーダーシップを提供します。また、編集責任者として、BBCの編集上の独立を守ることも、ディレクター・ジェネラルの大切な役割です。BBC内から選出されるほか、ITV(民間放送ネットワーク)からも選出されます。
BBCの受信料は、物価の上昇率を勘案して毎年値上げされます。具体的な値上げ率は、政府とBBCの話し合い、ロイヤル・チャーター(王室認可)を作成します。その話し合いの中で、ディレクター・ジェネラルと政府の密約が交わされることもあります。
BBCとしては、物価上昇率に沿った値上げが望まれるところですが、近年、受信料の未払いが刑事罰につながる現行の制度に懸念がでています。特に、女性高齢者が貧困のために刑事罰を受ける件数が増え、社会問題となっています。
現行のロイヤル・チャーター(王室認可)は、2028年3月まで継続するため、2028年度以降は、受信料によらない、もっと公正で適切な資金繰りのメカニズムを導入すべきではないかという意見が出されています。