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金子勇とWinnyの夢を見た 第4話 金子勇の経歴 その4

※この記事は、Advent Calendar 2023 『金子勇とWinnyの夢を見た』の五日目の記事です。

2度の家宅捜査

 2003年11月27日、京都府警察ハイテク犯罪対策室は、著作権法違反(公衆送信権の侵害)容疑で愛媛県松山市の無職少年(19)と群馬県高崎市の自営業男性(41)の2人を逮捕しました。

 先の2名を逮捕したのと同じ日に、東京都文京区の金子さんの自宅にも京都府警の捜査員が令状に基づいてガサいれに入りました。

 メンバーは、京都府警サイバー対策課の木村公也警部補のほか、写真担当の捜査官、警察庁の技官2名、警察庁近畿管区通信局京都通信部の技官1名の5名でした。今回の捜査の中心的な役割を担う木村警部補が、正犯2名の逮捕を差し置いて、京都からわざわざ東京の金子さん宅へやってきたことを見ると、こちらのガサ入れを一番重要視していたことが分かります。

 何度呼び鈴を鳴らしても金子さんは無視して寝続けていたそうですが、昼頃にやっと玄関に顔を出します。玄関を開けると、令状を見せるなり部屋に押し入りますが、部屋中ゴミだらけで、捜査・差し押さえの前に片づけをしてくれたそうです。複数台合った部屋中のパソコンを差し押さえられ、Winnyの配布サイトの閉鎖を依頼されました。

 その後、金子さんは東京都文京区本郷の警視庁本富士署に連れていかれ、参考人聴取を受けます。

 当初の目論見では、ガサ入れで違法ファイルがアップロードされているのを証拠として現行犯逮捕するつもりだったと思われます。しかし、警察が調べたパソコンのWinnyは、全てダウンロード専用になっていたため、逮捕するための証拠がでてきませんでした。

 違法ファイルのアップロードは、公衆送信権の侵害で逮捕できますが、違法ダウンロードに対する刑事罰化は、2012年10月1日の著作権法改正からになります。

 参考人聴取の中で金子さんにWinnyの開発・公開を中止するという「誓約書」を書いてもらうことになりましたが、実際書かせたのは「申述書」というものでした。「著作権を侵害する行為を蔓延させて、著作権のあり方を変えるのがWinny開発の目的だった」という内容を木村警部補が作文し、写させました。金子さんは、文面に誓約項目が出てこないことに違和感を覚え問いただしたところ、「もう帰らなきゃいかんから、署名してもらわんと帰れない」などと言われ、口頭で最後の部分を誓約書っぽくしたものに変更させられてサインすることになりました。警察は3時間余りの取り調べを終え、京都に帰っていきました。

 その後、押収したパソコン返却するといってパソコン持参で金子さん宅を訪れ、再度家宅捜査した後にまたパソコンを持って行ってしまいました。何が目的だったのか金子さんもよくわからなかったそうですが、2回目も空振りだったようです。

金子さん逮捕

 2月20日、米国際映画協会(MPA)がインターネット著作権侵害事件の摘発を称え京都府警を訪れています。3月にはWinnyでゲームソフトを公開して逮捕された松山市の少年は懲役1年、執行猶予3年の判決が出ます。しかし、Winnyによる流出は止まりません。著作権団体も『このソフトは難攻不落だ』と悲鳴を上げていました。

 2004年3月23日にWinnyが誰でも匿名でアップロードできるのを利用して、利用者のPCのスクリーンショット画像や、デスクトップに置かれているファイルを圧縮してWinnyによりアップロードするAntinny.G(通称キンタマウイルス)が発見されます。Antinny.G自体は単純なプログラムでしたが、思わずクリックしたくなるファイル名を付けるなどの巧妙な手口で感染をどんどん広げていきました。

 2度のガサ入れでも現行犯逮捕につながる違法ファイルをアップロードしていた証拠が見つからず、最初のガサ入れから半年後の2004年5月9日、京都府警サイバー犯罪対策課は、先の「申述書」を切り札にして著作権法違反ほう助容疑で金子さんの逮捕に踏み切ります。当時33歳の金子勇さんの逮捕については、事前にマスコミにリークされていたため、東京駅から新幹線で京都まで連れていかれる姿が撮影されています。

 警察は独自の判断基準で情報をマスコミにリークします。今回は、自白も取れ、有罪確定と考えてのことだと思いますが、それでもまだ被疑者です。


※1 Winny裁判、京都府警のベテラン刑事が捜査の詳細を証言, 2005-02-17, ASAHIパソコンNEWS, http://www.asahi.com/tech/apc/050217.html


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