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情報教育で福島の高校生の可能性を広げる

会津若松市の会津大学の学生たちが2023年に設立した株式会社inf.は、福島県内の高校を中心に情報技術の面白さを伝える出前授業を提供しています。情報について大学で専門的に学んだ学生たちが会社を起業し、中心メンバーは福島県の高校の卒業生。会津大学発ベンチャー企業」として活動するメンバーに、どんな思いで活動をしているかを聞きました。


「情報」の出前授業をはじめたきっかけ

株式会社inf.は、会津大学の学生が中心になり2023年に設立されたベンチャー企業です。会津大学のコンピュータ理工学部でプログラミングやデータサイエンスを学んでいる学生たちが、福島県内の高校で情報やAIに関する出前授業を行っています。

代表取締役社長で会津大学4年の石川達也さん(安達高校卒)は、大学2年生の終わりに株式会社inf.を起業しました。石川さんは二本松市の山間部で育ちました。通っていた小学校は1学年約20名。高校、大学に進学することでだんだん世界が広がる一方、将来の職業や社会に関する知識について自分の視野が狭かったことに気づき、情報格差を痛感しました。

その後、会津大学で情報について学ぶ中で、石川さんは情報格差を解決する1つの方法に気づきました。インターネットが普及した今、都会でも田舎でも手軽に必要な情報を収集できます。そしてAIなどの最新技術を世界中どこにいても利用することができるようになりました。子どもたちが情報を活用する力を高め、そのために最新の情報技術に興味を持ってもらいたい。石川さんは出前授業を通じて地域社会に貢献したいという想いを強くしました。

石川さんの両親は教員で、子供の頃から教育現場の話を聞き、無意識に教育への関心が高まっていました。また、石川さんのお兄さんが起業していたということも起業という選択肢を考えるきっかけになりました。

多くの大学生が出前授業をサポート

株式会社inf.では福島県内の高校に対する出前授業を継続的に行っており、2024年度は県内4校に対し、課外授業などでプログラミングやAI、WEBデザイン、データサイエンスなどを教えました。

授業にはサポート役として会津大学の学生が参加し、高校生の立場に立ってわかりやすい授業を心がけています。メンバーの中には教員免許の取得を目指している大学生もおり、教育現場での経験を通じて学生にとっても新しい気づきを得ることができる機会となっています。

また、プレゼンテーションのデザインも得意とし、「情報」や「総合的な探究の時間」についての教材制作も行っています。一般社団法人と共同で開発した「情報I」の教材では、スライド1000枚以上を作成。この実績をもとにしながら、企業や大学と連携し、教材制作を行っています。

株式会社inf.が教材制作にかかわった「やさしい情報Ⅰ」

幼なじみ同士で事業を前に進める

inf.のメンバーの大内健一さん(安達高校卒)は、石川さんの幼なじみ。石川さんと同じく二本松市の山間部で育ち、幼稚園、小学校、中学校、さらには高校、大学まで同じ学校に通っています。17年以上石川さんとともに同じ学び舎で過ごしてきました。

石川さん(写真左)と大内さん(写真右)

大内さんは高校時代、石川さんと一緒に帰る仲で、2人で歩きながら「福島のためにできることはないか」や「家族を幸せにするためには何ができるか」という話をよくしていました。大内さんは石川さんと話しながら「自分の周りの人々を幸せにするためには何ができるか」ということを模索しはじめ、自然と福島に貢献したいという意識を高めていきました。

そんな考えから大学進学を考える時、いつかは自分で会社を立ち上げて福島に貢献する事業を実践したいと考えるようになりました。

石川さんの誘いもあり最終的には地元福島の会津大学に進学することになりました。先に起業準備を進めていた石川さんの誘いでinf.に加わった大内さん。「一緒にやらないか」という石川さんの一言が素直に嬉しかったと振り返ります。

石川さんの存在について「何でも言い合える家族のような存在であり、社長として尊敬できるひと」と語ります。これからも石川さんと一緒に活動を続けながら、共に成長していきたいと話します。

工業高校の学びを出前授業に活かす

inf.には浜通り出身のメンバーもいます。メンバーの遠藤真生さん(平工業高校卒)は大学院の2年生で石川さん・大内さんの2学年先輩。inf.が立ち上がって1年ほどたった2024年度から本格的に活動に加わりました。情報の教員免許を持ち、子どもたち向けのプログラミング教育を実践してきた経験を持っています。

情報系の学科で学んでいた高校時代、将来ゲームを作りたいと最初は専門学校を志望していましたが、先生からの「もっと広い視野で学んでみたら」というすすめで大学進学を考え始めました。オープンキャンパスに参加して大学の学びに興味をもち、会津大学主催の「パソコン甲子園」というプログラミングコンテストにも出場をしていたことから、会津大学への進学を決めました。

大学に入学してみると驚いたことがありました。それは自分自身が工業高校時代に習っていたプログラミングや情報処理を、普通科の学校から大学に入学した友人が大学で学んでいたことです。自分が工業高校でプログラミングを学んで良かった、と思うとともに、「普通科の高校にも情報を学ぶ機会を広げたい」と思うようになりました。

遠藤さんは大学・大学院の研究室でプログラミング教育の研究に取り組み、大学で「情報」の教員免許を取得。高校生や社会人向けのプログラミング教室の講師もしていました。石川さんたちと出会い、大学院の2年生の時にinf.の活動に加わり、ご自身の経験を活かしてPython(パイソン)のプログラミングなどを県内の高校生に教えています。

ITなど情報社会が進展する中、日本の高校でも「情報」について学ぶ機会が重視され、2025年度の大学入学共通テストからは「情報Ⅰ」が実施されます。遠藤さんは「情報についての教育の転換期だからこそ、今inf.の活動に加わらないと後悔すると思った。学校の悩みを解決し、福島のいろいろな高校に情報について学ぶ機会を広めていきたい」と話しました。

福島の高校生の可能性を広げたい

福島県内から様々なメンバーが集結した「株式会社inf.」。社長を務める石川さんは、情報に関する出前授業を中心とした活動から、より幅の広い教育の提供を目指しています。特に、高校生など若い世代の進路選択に焦点を当て、彼らの「やりたいこと」や「可能性」を広げる活動をしたいと考えています。

「福島で教育といえばinf.と言われるくらいまで成長していきたい」と話す石川さん。学びたい人へ無限の可能性と選択肢を提供するために、福島の子どもたちの未来に貢献し続けます。

写真提供=株式会社inf.

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