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地域の資源を発掘し、学生の力でビジネスをつくる
郡山市にある日本大学工学部の起業サークル。大学近くにあるため池「古川池」に浮島を浮かべて空心菜を栽培、販売し、空心菜を利用したメニュー開発などを行っています。サークルの会長を務めるのが、工学部3年生の菅原由騎さんです(喜多方桐桜高校卒)。菅原さんは起業サークルの取り組みをもとに福島県と福島イノベーション・コースト構想推進機構が主催するビジネスアイデアコンテスト「イノベのたまご」に出場し、イノベ機構インキュベーション賞を受賞しました。
水質浄化のために育てられていた空心菜を販売する
菅原さんが空心菜の栽培・販売に取り組むきっかけとなったのは、大学3年生の時に、土木工学科の教員が進めていた古川池の水質浄化プロジェクトに参加したことでした。古川池は、菅原さんが通う日本大学工学部のすぐ近くにあり、かつて阿武隈川が流れていたところで、川の流れを直線にする工事がされたことで池となりました。一方で水の流れが悪くなり、窒素やリンがたまって水質悪化の原因となっていました。
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古川池では、池に浮かべた浮島で空心菜を栽培して窒素やリンを吸収させ、水質浄化を目指すプロジェクトが行われており、このプロジェクトには市内の高校生もかかわっていました。
空心菜は池の養分を吸って驚くほどの速さで大きく育ちました。普段スーパーや八百屋で売られているものよりも大きく育っていたのですが、主な目的は池の水質浄化だったため、その販売までは行われていませんでした。
菅原さんはせっかく育った空心菜が販売されてないことを知った菅原さんは「大学の研究を生かしてビジネスを考えるプロジェクトにかかわりたい」と空心菜の販売やメニュー開発を行うことにしました。
多くの人の協力で完成した「空心菜丼」
空心菜は、その名の通り茎に空洞があり、中華料理などで使われています。炒め物にするとシャキシャキという食感が楽しめます。また栄養価も高く、ほうれん草の約4倍のカリウムを含んでいます。
菅原さんたちは自らつなぎ姿で池に入って空心菜を収穫し、そこからオンラインでの予約販売を行いました。また、中華料理店などを訪問してサンプルを提供し、気に入ってもらえた場合に購入してもらうという営業活動を行いました。実際に販売してみると環境意識が高い中華料理屋さんや学生の活動を応援してくれる方が買ってくれました。
菅原さんたちはさらに、空心菜のおいしさと魅力を広めるためにメニュー開発を行いました。
その名も、「空心菜丼」
作り方は以下の通り。まずは空心菜をごま油とにんにくでいため、塩でシンプルに味を付けます。
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次に、炒めた空心菜をご飯の上に盛り付け、その上に豚肉を乗せてボリューム感と旨みをプラス。さらに温泉卵をトッピングすると見た目にもおいしそうな空心菜丼の完成です。菅原さんは大学の学園祭で店を出し、多くの方が空心菜丼を購入し笑顔で味わっていました。
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メニュー開発にあたり、菅原さんはフードコーディネーターに協力を依頼。菅原さん自身も空心菜の本場・タイに旅行したときに空心菜を味わい、現地の野菜ソムリエの方にお話を聞くなど様々な人の協力を得てメニューを開発しました。
日本大学工学部には、機械工学、土木工学、建築学などの6学科があります。菅原さんの起業サークルには、これらの全学科の学生が所属し、各学科の学生の専門知識を生かした活動が行われています。
古川池をフィールドにしていることもあり、土木工学を学ぶ学生たちから学ぶことは多いそう。また、情報工学を学ぶ学生が自分たちの活動を知ってもらうためのSNS戦略を考えています。菅原さん自身は電気電子工学を専門に学んでいますが、学んだ知識がどのように生かせるか模索していきたいと話します。
「やればできる」と感じた高校時代の資格取得
菅原さんは、喜多方市の喜多方桐桜高校に通っていました。高校時代には、電気・電子科に所属し、「第一種電気工事士」、「第二種電気工事士」などの資格を取得するため、日々資格取得に向けた勉強に励んでいました。資格取得に向けて努力を積み重ねていく過程で、「難しい資格であっても時間をかけて取り組めば取得できる」ということに気が付いたと言います。
この経験を通じて、「やれば何でもできる」という自信を手に入れ、こうして得た考え方が、大学に入ってすぐ、大学1年生の時に起業サークルを立ち上げる原動力となりました。また、高校時代に「起業」について学ぶプログラムに参加していたことも、起業サークルの設立につながったと振り返ります。
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福島全体に空心菜の価値を広げる
活動を通し、菅原さんは「空心菜が本当に売れたということが最大の驚き」と振り返ります。小さくても成果を上げられたことを自分たちの自信にしながら、次の行動を考えてきました。
菅原さんは今後も空心菜の販路拡大や空心菜を使った新たな商品開発をしていきたいと考えています。例えば冷凍での提供や新たなメニュー開発にも力を入れたいと考えています。そのためにはまずは自分たちの取り組みを知っていただくことが大切だと考えています。大学のある郡山から空心菜の認知を広めていくことで活動を福島全体、さらには全国へと広めていこうとしています
また、浜通り地域では原発事故の影響で、土で作物が育てにくいところもありますが、ため池で水耕栽培可能な空心菜であれば栽培が簡単で、さらに池の浄化にも役立つという利点を指摘します。菅原さんは農業のイノベーションを通じて、浜通りが元気になり、地域の希望となることを目指し、「イノベのたまご」に応募しました。
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地域の資源を探し出す
空心菜という、身近な地域にある未利用の資源を活用した取り組みを行った菅原さん。1年生の時には起業サークルの活動の一環で、湖南町で使われなくなった畑を開墾して観光農園を整備し、野菜や果物の商品化や肥料の開発などを行うなど、地域の未利用資源に光を当てた取り組みをしてきました。
「福島には、利用されていないもの、まだ知られていない魅力がたくさんあると思います。それを探し出し、ビジネスにつなげていけることで持続可能な社会を創造できる」と話していました。
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