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子供向けのキャンプを通じ、喜多方から目指す人づくり

福島県喜多方市の「NPO法人かけはし」で代表を務める石島来太らいたさんは、子どもたち向けの自然体験キャンプなど、地域で多彩な活動を展開しています。大学時代に東日本大震災のボランティアを経験したことから、「人のつながりの大切さ」に気づいた石島さん。その想いを胸に、人づくりに力を注ぎ、子どもから大人まで幅広い世代が学び、成長し合える場の提供を目指しています。地域の魅力を最大限に活かしながら、新たな価値を生み出そうとする石島さんにお話を聞きました。


「人のつながりの大切さ」に気づいた大学時代

石島さんは、長野県の高校を卒業後、福島大学への進学を機に福島県にやってきました。スポーツ科学が学べるということで福島大学に進学。大学2年生の終わりに東日本大震災が発生しました。震災後にはボランティア活動に力を入れ津波被災地での泥かきや片付け、福島市内の避難所での傾聴ボランティア、被災地支援のイベント運営などを行っていました。震災からちょうど1年後、石島さんたちが福島市で企画したイベントには、全国から約200名の学生が福島市に集まりました。

石島さんはボランティア活動や復興支援活動の中で多くの人とのつながりができました。高校時代までは学校や家、塾のつながりしかなかった石島さんにとって、人と人との輪が一気に広がりました。学生や社会人の方、企業の経営者の方と出会い、話す中で「人のつながりの大切さ」に気づき、つながりが広がることを楽しく感じていました。

「自分もまちづくりにかかわり、つながりを作っていきたい」

石島さんはそう思うようになりました。

地域づくりには人づくりが大切

石島さんは、一度就職で地元の長野に戻りましたが、大学時代のボランティア活動を行っていた際に出会った方とのご縁で、喜多方市のNPOに就職。そこから喜多方市の地域おこし協力隊として高郷町という山間部の地域で活動しました。石島さんが行っていたのが、中華料理の「ザーサイ」の栽培の研究。日本で出回っているザーサイのほとんどが中国産ということで国産のザーサイは非常に価値があり、栽培ができないかという研究を行っていました。「毎日ザーサイ畑を周り、日本で一番ザーサイと向き合っていた自信があります」と振り返ります。

また、1500人ほどが住む高郷町には小学生が60人ほどしかおらず、普段は離れたところに住んでおり、小学校までバス通学をしているような状況でした。近くに友達が住んでいないため一緒に遊ぶという機会も少なかったため、小学生を集めて自然の中でのびのび遊ぶ自然体験教室を開催しました。

NPO法人かけはしの立ち上げ

もともと何か新しい事業を立ち上げたいと考えていた石島さんは、「地域おこし協力隊」として3年間活動した後、喜多方市でNPO法人かけはしを立ち上げました。駅前の拠点には地域住民が集える交流スペースを作り、英会話スクールやオンラインの家庭教師など教育やまちづくりにかかわる多様な事業を行ってきました。

県・市など地域の自治体からのお仕事を受けることも多く、社会人向けの創業支援や高校生向けの「デジタルアート」の企画展・ワークショップの実施などを行ってきました。「自治体に予算があっても、その予算で高い質の仕事ができる実行団体が必要。公的な機関からの信頼度が高いNPO法人を選択しました」と話します。

NPO法人かけはしHP

小学生向けの自然体験キャンプを企画

特に力を入れているのが小学生向けの自然体験キャンプ「喜多方スマイリングキャンプ」です。このキャンプは喜多方市に住む小学生を対象に家族の元から離れて喜多方市の大自然の中で1泊2日を一緒に過ごすというプログラムになっています。川遊びや雪遊びなど大自然を楽しみ、初対面の人と友達になったり料理に挑戦してみたりと普段の生活では味わえない体験を得ることができ、春夏秋冬の季節に合わせて企画をしています。

春にはピザ窯で本格的ピザを作り、夏には川遊びを楽しんだり、「宿題キャンプ」と題して夏休みの宿題を一気に進めたり、自由研究を一緒に考えたりする企画があります。また、秋には紅葉の中でアスレチックに挑戦したり、冬には雪遊びが出来たりと喜多方市の自然の豊かさを強みにしたプログラムが四季を通じて企画されています。

特に力を入れているのはSNSでの情報発信です。例えばInstagramで活動している様子を投稿したり、子どもたちの家族に向けてキャンプでの出来事をその日のうちにブログに書いて報告したりしています。そしてキャンプが終了すると1本の動画にまとめ、その様子をYoutubeで公開しています。石島さんは「参加者や保護者の方の満足度が高いので、夏のキャンプに参加した子どもが今度は春や秋のキャンプに参加するなど、継続的に参加していただけている」と話します。

さらにこのキャンプには、高校生のボランティアが参加しています。最初は慣れない高校生も時間が経つと、子どもたちや周囲の大人を見て自分たちだけで動けるようになっていき、子どもたちとの接し方も上手になっていきました。石島さんは、キャンプを通してボランティアの高校生も成長していく様子を頼もしく感じています。「ボランティアで参加する高校生や大人にとっても、仲間づくりのきっかけや次に成長するきっかけを見つけてほしい。キャンプは子供にとっても大人にとっても成長の場になっています」と話します。

大切なものが残るまちに新たな価値を

商いのまちとして栄えた喜多方市。中心部には土蔵の街並みが残り、郊外には豊かな田園風景が広がっています。石島さんは小さな商店がたくさん残っていることが喜多方の魅力であり、大きな経済の中に自分たちがいるというよりも、小さな商売で地域が回っているような感覚を得られるといいます。石島さんは、「誰のために仕事をしているのかが見えること、人と人とのあたたかな関係の中で生活できていることが楽しい」と話します。

石島さんは、古くから受け継がれたものを残しつつ、まちに新たな価値を生み出すことで、喜多方をより豊かで面白い街にしていくことを目指しています。石島さんは「私たちが活動することで、夢を持った若者が何か新しいことに挑戦でき、それを周囲の人たちがちゃんと応援できる街にしていきたい。高校生のみなさんもぜひかかわってほしいです」と話しました。

写真提供=NPO法人かけはし

◆探究キーワード 「NPO」


NPO(非営利団体)とは、営利を目的とせず、社会的な課題の解決や地域の福祉向上、子供たちの教育、文化活動、環境保全などの公益的活動を行う団体です。

福島県内では令和6年5月現在926の団体が活動しており、活動内容は保健・医療・福祉、まちづくり、子どもの健全育成などが多くなっています。

参考)福島県庁HP 福島県のNPO法人状況

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