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次世代に研究の魅力を伝え 未来の研究者に思いをつなぐ

東北大学の女子学生による団体「東北大学サイエンス・アンバサダー」。小中高生に科学の魅力や研究のおもしろさを伝えようと、研究紹介を行う高校向けのセミナーや科学実験イベントを開催しています。どんな活動を行っているのか、メンバーの大学院生のみなさんにお話を聞きました。


科学の魅力を次世代へ

東北大サイエンス・アンバサダーは2006年から活動を開始しており、博士前期課程(修士)と後期課程(博士)の女子学生(性自認(こころの性)が女性の方も含む)が活動しています。サイエンス・アンバサダーの専門分野は自然科学・人文科学・社会科学まで多様で、2024年度は約50名が活動しています。

東北大学薬学系研究科博士3年の横山裕香ゆうかさんはサイエンス・アンバサダーとして3年間活動してきました。横山さんは高校生向けに研究や大学生活を紹介する「出張セミナー」や、科学実験や工作を通して、子どもたちに科学のおもしろさを伝える「科学イベント」、東北大学のオープンキャンパスでの進路相談や女性研究者との対談などを行ってきました。

子どもたちの「なぜ?」を引き出す

横山さんが、子どもたち向けの科学教室で心がけているのが、子どもたちの「なぜ?」という探究心を引き出すこと。横山さんはその理由を「なぜ?なんで?と子どもたちが問いを持っていることは、そのテーマに興味を持ってくれていることだからです」と語ります。

これを心がけるようになったきっかけは、横山さんの中学時代の経験にありました。中学3年生の時、進学を志望していた高校の科学実験講座で出会った、化学部の女性の先輩にあこがれたこと。実験を素早く、かつとても楽しそうに行いながらどんな質問にもしっかりと答える姿を見て「どうしたらそんなにかっこよくなれますか?」と尋ねたところ、先輩はこう答えました

「常になぜを考えているんだよ」

この一言が、横山さんの胸を打ちました。「なぜ」を考えることで、未知の世界に出会い、自分の視野が広がるんだ。そう気づいた横山さんはサイエンス・アンバサダーとなった今、子どもたちの「なぜ?」をひきだすために、実験を楽しみ、子どもたちに笑顔で接することを心がけています。

少し年上の先輩に話を聞いてみる

横山さん自身は「PETイメージング」という生体画像化技術で使用する放射性薬剤の検査方法を研究しています。短寿命のポジトロン放出核種(11C、18F、124Iなど)を生体内にある分子や治療薬、もしくは全く新しい形をした化合物に付けて、そこから出る放射線を測定して体の内部の臓器や組織の機能を見ることができる方法です。PETイメージングはがんの早期発見・治療の経過診断や認知症等の診断、治療薬の開発といったさまざまな分野に応用されています。

横山さんがこのテーマと出会ったのが高校1年生の時。「SSH(スーパーサイエンスハイスクール)」に指定された高校に通っており、高校1年生の研究発表会で出会った理化学研究所の研究者からPETイメージングを教えてもらったことでした。

当時、過敏性腸症候群で体調不良になることがあり、処方薬が効かないという悩みを抱えていた横山さんは、PETイメージングを使えば、薬が効かない原因を突き止めることができ、さらには薬剤開発にも役立つということに衝撃を受け、この分野で研究することを決めました。

横山さんは中学生の時に憧れの先輩に出会ったというエピソードも含め、「自分より少し上の先輩に話を聞くこと。そして自分のロールモデルとなる人を見つけることが大事ですね」と振り返ります。

横山さんは、PETイメージングを研究するために秋田大学の理工学部で化学の基礎と応用を学び、大学院からは病気について知るために東北大学の医学系研究科に進学しました。さらに博士課程では病気を適切に診断する薬について研究するために薬学研究科に進学。多様な専門分野を研究してきました。

博士課程の修了を控え、今後研究者の道に進む横山さんは、自身の研究している分野に女性研究者が少ないことに課題意識を感じており、一般市民の方にも研究内容を伝えていきたいと考えています。今後は高校生や子どもたちに科学をわかりやすく伝えてきた経験を生かし、「今後は一般市民の方に研究のおもしろさに加え、研究がどう社会に貢献するかについても伝えていきたい」と話します。

社会科学の研究の面白さを伝える

東北大学農学研究科博士1年の渡辺日奈乃ひなのさん(県立福島高校卒)は、農業経営学を研究しています。渡辺さんが研究しているのは、国内の農業法人の経営に関するテーマ。経済学・経営学の知識も必要で文系の要素も含んだ研究をしています。渡辺さんは文系寄りの社会科学の研究に興味を持つ高校生を増やしたいという思いでサイエンス・アンバサダーに入りました。

渡辺さんはサイエンス・アンバサダーの「note」で活動の発信をしています。理系学部・研究科の紹介やサイエンス・アンバサダーの進路選択や実習にまつわる実体験、大学生活についてなど、さまざまなテーマについて記事を書いています。次世代の研究者を目指す中高生に「こんな女性研究者もいるんだ!」「科学って楽しい!」という思いを伝えるべく活動を行っています。

サイエンス・アンバサダーのnote

農業経営学を学ぼうと思ったきっかけ

渡辺さんは大学に進学するまでの18年間を福島で過ごし、過疎化や高齢化によって徐々に地域産業や農業が成り立たなくなる様子を身近に感じていました。そんな地域を東日本大震災が襲い、津波や放射性物質による被害を受けました。渡辺さんは、生まれ育った地域の農業が震災で深刻なダメージを受ける様子を目の当たりにして地域の過疎化・農業問題に関心を持つようになりました。

特に、農業の労働力不足や後継者不足、農業施設の維持管理などに関心を持ち、東北大学農学部の「農業経済学コース」を目指して東北大学に進学しました。現在は農業法人の経営を研究しています。農業というと農家が小規模で行っているイメージが強いと思いますが、最近は「会社」のように従業員を抱えて大規模で経営をする「農業法人」が増えており、農業法人に就職する形で農業の世界に入る若者が増えています。一方で、農業では人手不足や、離職率が高いといった問題が特に深刻です。働きやすい職場を作るために、農業法人がどのように人材育成や職場づくりをしているかというテーマを研究しています。

農学部では実験という研究方法を用いることが多いですが、農業経営学は、地域の農家や農業法人を訪れてインタビュー調査やアンケート調査を行うこともあり、渡辺さん自身も学部生の時には北は秋田から南は山口、修士課程からは海外にも飛び出し韓国や中国でフィールドワークを行いました。

博士課程の時に訪問した中国の棚田

  

外に飛び出し、学びの多様さに気づく

渡辺さんは、福島を離れて外に飛び出したことで、自分が生まれ育った地域を新たな視点で理解できたと語ります。渡辺さんは就職で一度東京で暮らし、働きながら修士の学生として研究していました。福島や東北を離れたことで、思っている以上にみんな農業に興味を持っていないという課題に気づいたそうです。

「私が在籍している農業経済学コースの友人には、例えば国際協力や環境問題に興味を持っている学生もいて、色々なテーマで学習ができる分野だと考えています。東北大学での学びの形は多様ですので、ぜひオープンキャンパスなどに足を運び、いろいろな先輩と話をしてみてほしいです」と話しました。

写真提供=東北大学DEI推進センター



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