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柳津町でかなえた職人の夢「赤べこ伝説発祥の地」で磨く技

自然豊かな奥会津の玄関口にある柳津町。「赤べこ伝説発祥の地」としても知られるこの町で、赤べこ作りを行っているのが、やないづ張り子工房Hitarito(ヒタリト)の伊藤千晴さんです。

工房はJR只見線の会津柳津駅の駅舎の中にあります。この場所から全国そして世界へと赤べこや奥会津の魅力を発信することを目指しています。



「職人になりたい」という夢をかなえる

伊藤さんは群馬県高崎市のご出身。2019年に「地域おこし協力隊」として柳津町に移住し、赤べこ工房を始めました。

もともと手を動かして何か作ることがずっと好きだった伊藤さん。ものづくりに興味を持ち、いつかは職人になることを目指していました。大学の美術系の学部を卒業し会社員として働いていたとき、柳津町が「地域おこし協力隊」の制度で赤べこの張り子職人を募集していることを知りました。「地域おこし協力隊」とは都会から地方に移住して地域の活性化を行う人を募集する制度のことで、伊藤さんは大学時代にこの制度を知り当時から興味を持っていました。

群馬県生まれの伊藤さんは雪の暮らしを体験したことがなかったため、あえて冬の季節に柳津町をはじめて訪れました。そこで見た美しい雪景色に心を奪われ、移住して新しい挑戦を始めることを決意しました。

「赤べこ伝説発祥の地」に工房を

柳津町は、赤べこ伝説発祥の地として知られています。一説によると、約400年前、災害で倒壊した町内の圓藏寺(えんぞうじ)の再建にあたり、急な斜面に木材を運び上げる必要がありました。牛を使い木材を運んでいましたが急な斜面を前に牛たちも力尽きてしまいます。そんな中、赤毛の牛が突然現れ、必要な木材をあっという間に運び上げると、再び姿を消したといいます。

この出来事にあやかり誕生したのが玩具の「赤べこ」といわれており、城下町として栄えた現在の会津若松市付近で産業として発展しました。一方で、伝説発祥の地である柳津町に工房はありませんでした。そこで町は赤べこの制作技術を伝承する担い手を育てるために「地域おこし協力隊」を募集していました。

=赤べこと圓藏寺(奥)

駅に作った工房から地域の魅力を発信する

伊藤さんは柳津町に移住し、柳津町の隣町、西会津町にある工房で赤べこ制作を学び、1つ1つ手作業で丁寧に赤べこを作っています。伊藤さんが手がける赤べこは、伝統を大切にしながらも独自の工夫を加えたデザインが特徴です。

赤べこの色は一般的な赤色だけではなく日本の伝統色を取り入れ、朱色や赤茶色、くすんだピンクなどを用意しています。赤べこの形はほかの赤べこよりも曲線的で丸みを帯びており、模様を入れるのが大変とのこと。「柳津町」にちなみ背中には「や」をデザインした模様を入れています。また、赤べこを販売するお店ごとに特注品も作っており、工房には黄色やグレーなど色々な色の赤べこが並べられています。

伊藤さんの工房があるのは、JR只見線の会津柳津駅。もともとは別の場所で工房を開業する予定でしたが、会津柳津駅を地域の交流や観光の拠点にしていきたいという町の方針もあり、伊藤さんに声がかかりました。もともと駅員のためだったスペースは伊藤さんの工房となっており、伊藤さんの赤べこ作りの体験を間近で見ることができるほか、色とりどりの赤べこの展示を見たり赤べこを購入したりすることもできます。

JR只見線は、豪雨災害の影響で長らく不通が続いていましたが2022年に全線が開通。全国でも有数の「秘境路線」として鉄道ファンに親しまれています。駅舎には赤べこ工房だけでなく観光案内所もあり、週末にはカフェもオープンするなど多くの人が訪れる場となっています。赤べこ伝説が残る圓藏寺も駅からほど近い場所にあり、お寺への道筋には名物の「あわまんじゅう」を作る店が立ち並び、ゆったりと流れる只見川を見ることができます。

伊藤さんは「柳津町が赤べこ伝説発祥の地というのは、とても強いPRポイント。伝説発祥の地である柳津で作る赤べこをきっかけに、この町を好きになってくれる人を増やしたい」と語ります。

絵付けから組み立てまで、職人の気持ちを体感

伊藤さんは「奥会津ならではのモノ」を体験できるプログラム「せど森の宴」でも赤べこの絵付け体験のプログラムを提供しました。

今回は職人の気持ちになって、本来の制作の手順を体験できる体験プログラムを提供。首と胴体部分にそれぞれ絵付けを行って、その後組み立てを行いました。初心者でも作成しやすいようにポスカやアクリル絵の具を使って自分だけの赤べこを手軽に作ることができます。この体験には、職人の気持ちを少しでも感じながら、赤べこの魅力に触れてほしいという伊藤さんの想いが込められています。

奥会津の各地には、冬の間の手仕事として作られてきた工芸品が今でもたくさん残っており、「せど森の宴」でも体験をすることができました。伊藤さんは「三島町の編み組細工や昭和村のからむし織など、植物を材料にした工芸品は1年かけて1つのものを作り上げていきます。このスケールの大きさは、手仕事だからこそ生まれるものだと思いますし、その土地でとれるものを生かして冬を過ごしてきたことを実感します」と話します。

「せど森の宴」ホームページ

福島から世界に赤べこを広めたい

伊藤さんは海外にも赤べこを広げていきたいと考えています。伊藤さんが最初に海外に自分の赤べこを紹介したのが、フランス。2024年の夏に開催された「JAPAN EXPO」で福島県の工芸品を紹介する機会があり、伊藤さんも出店しましたが、現地では赤い色が縁起が良いという認識がなく、赤べこの魅力を伝えるのに苦労したといいます。

一方で、アジアでは赤が魔除けや縁起の良い色として親しまれており、文化的な価値観の違いを実感しました。伊藤さんの出身地・群馬県高崎市でも赤いダルマが有名です。「アジアの皆さんに赤べこの魅力を伝え、ダルマと同じように赤べこが縁起物として広がっていってほしい」と話しました。

写真提供・取材協力=奥会津振興センター

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