「暴力性」とにらめっこ|本間さや香|2022-23 essay 08
きっとこれは運命
「SOCIAL WORKERS LABってすごい!!」
SOCIAL WORKERS LAB(以下SWLAB)との運命的な出会いを果たした2022年2月、私は喜びで溢れていた。「8月から始動するふくしデザインゼミというプロジェクトに参加しない?」とお声掛けいただいたときは二つ返事で参加を決めた。なぜなら、SWLABのみなさんのことや、みなさんが大事にしている福祉の考え方、人との向き合い方が大好きで、大ファンだったから。そして、このプロジェクトを通して、新たに社会福祉法人武蔵野会の大ファンになってしまった。
こんにちは、編集の暴力性
私は武蔵野会の採用(仲間探し)担当である菅春菜さんを取材し、図鑑の執筆を担当した。取材後、私は「菅さんツアー」を体験した気分だった。次は読者に菅さんツアーを体験してもらうために図鑑を執筆する番だ。大きなプレッシャーと小さなワクワク。菅さんから出たことばと私自身の内にあることばを紡ぎながら、いかに「菅さんらしさ」がにじみ出るツアーにできるか、試行錯誤を重ねた。
ここで向き合わざるを得なかったのが「編集の暴力性」だ。私が書いた「菅さん図鑑」が読者にとっては「菅さん情報」のすべてとなるのに、使えるのはたったの1ページ。菅さんを菅さんたらしめる要素を、1ページにまとめて紹介するのは極めて困難だ。講師の小松さんが「人のある一面だけを語ってしまえば、もう一面は見えなくなってしまう。編集に隠された暴力性や恣意性にも向き合って」と話していたことを思い出した。
編集には暴力性がある。だけど書かないわけにはいかない。取材で聞ききれなかったことやさらに詳しく知りたいと思った箇所は追加でインタビューさせてもらい、菅さんらしさがにじみ出るようにした。よりどころとなるのは「私のことば」だ。だが、それと同じくらい「菅さんを大事にする」という気持ちを持つ。それが、編集の暴力性を減らしてくれる。暴力性を自覚することによって、相手と向き合うことの大切さを強く実感するようになったのだ。
「向き合う」と向き合う
取材では取材対象者と向き合い、相手を大事にすることでよりよい編集ができるのだと気づいたが、実は、私たちの日常も何かと「向き合う」ことで溢れていると思う。自分と向き合う、他者と向き合う、社会と向き合う…私がSWLABの大ファンである一つの理由が、他者と、そして社会と本気で向き合っていると思うからだ。福祉の関係人口を増やし、社会をより良くするために、いろんな地で、多くの人と向き合いながら手足を動かしている。シンプルにめちゃくちゃカッコイイ。
そして、武蔵野会も「自分を愛するように、あなたの隣人を愛せよ」という理念のもと、利用者さんと向き合っていた。そのことは取材を通して伝わった。しかも、その「向き合う」を楽しんでいるなと思った。11月に取材した高橋琉香さんが「仕事が楽しい」と目をキラキラ輝かせながらお話しされていたのは、そんな「武蔵野会らしさ」が現場を包んでいるからだろう。
ただいま絶賛向き合い中
私はSWLABに出会ってからちょうど1年経つ今年2月から、武蔵野会の障害者福祉施設の一つである「えみふる」で生活介護のアルバイトを始めた。えみふるでは「利用者さんと向き合う」ことの繰り返しだ。私の価値基準で利用者さんを判断して支援を行うと、私の思うままの支援になってしまう。支援した瞬間に、その支援には含みきれない利用者さんの思いが生まれる。まさに支援の暴力性だ。その暴力性を少しでも減らすために、利用者さんの思いを尊重し、コミュニケーションを大切する。意思疎通が難しい方の場合、表情や身体の動きをよく観察し、利用者さんの気持ちを想像する。「利用者さんを大事にしたい」という思いがあれば、支援の暴力性に打ち勝つための方法はたくさんあるのだと感じた。
何かのアクションを起こすことで、そのアクションのなかには含みきれなかったもの、が生まれる。編集も支援も同じだった。編集と支援がこのようにつながるとは、福祉一筋だった私には大きな発見である。これからは、何かアクションを起こすときに「相手を大事にする」姿勢で、暴力性と向き合い続ける私でありたい。暴力性が少ない方が、きっと、自分も相手も、格段に豊かになれるからだ。
|このエッセイを書いたのは|
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お知らせ ~ふくしデザインゼミ展を開催します!~
ふくしデザインゼミ展は、福祉と社会の関係をリデザインする実践的な社会教育プログラム「ふくしデザインゼミ」の成果を、さまざまな形で鑑賞・体験する企画展。ゼミ生が制作した『ふくしに関わる人図鑑』に関する展示を中心に、トーク、ツアー、さらには「仲間さがし」に至るまで。福祉を社会にひらく、さまざまな企画を予定しています。ぜひお越しください。